自分でできる!うつ、不安の克服 / 全8章
第1章「うつを克服する」
第2章「気分と行動の関係を理解する」
第3章「習慣を変える方法」
第4章「逃げない自分になる方法」
第5章「行動を変える方法」
第6章「ネガティブ思考をやめる方法」
第7章「気分、感情に流されない方法」
最終章「人生をコントロールする」
第5章「行動を変える方法」
行動を変え、新しい生活を手に入れる
「習慣」とは、日常的に繰り返し行っている行動のことです。
その行動は自動的に起こり、なぜ自分はそれをしているのかを考えることはほとんどありません。
これまでの章では、自分の「考え方、気分、行動」を振り返り、それらを「意識化」する取り組みをしてきました。
その取り組みを通して、今まで無自覚だった行動、習慣が少しずつ見えるようになっていると思います。
今回のテーマは「行動を変え、新しい生活を手に入れる」ということです。
新しい生活とは、新しい「習慣」を生活に取り入れるということです。
もちろん自分にとって前向きな気持ちになれる習慣を取り入れていきます。
そうすることで生活にハリが出て、活気のある毎日を送ることができるでしょう。
行動を変えるための6つの心構え
普段の行動、習慣を変えていくためには、きちんとした準備、計画が必要です。
そのときに鍵をにぎるのは「行動実験」という考え方です(行動実験については第1章を参照)。
行動実験を実践するときの「6つの心構え」を心に留めておきましょう。
< 行動実験をするときの「6つの心構え」>
① 新しい行動を「実験」ととらえて実行する
⇒ 実験なので「失敗」はない。
② 実験することでどのような結果(=気分)になるか興味を持つ
⇒ 不快な結果になっても落ち込まない。
③ 取り組みやすい行動から試してみる
⇒ 途中で挫折しないために簡単な行動を選ぶ。
④ 結果に過剰な期待をしない
⇒ 良い結果ばかりではないし、変化には時間がかかるもの。
⑤ 恥ずかしがらずに実行する
⇒ 他の人がどう思うかは気にしないで実行する。
(気になる場合は人には内緒でOK!)
⑥「やればできる」ではうまくいかない
⇒ 実行するためにはきちんとしたステップが必要。
ハルコさんの場合
【人物、設定はすべて架空のものです】
ハルコさんは32歳、独身で一人暮らしをしています。
仕事や人間関係に特に不満があるわけではありませんが、仕事が終わって一人になると何か寂しさや憂うつな気分を感じます。
仕事から家に帰ると、まずソファに座りテレビをつけます。
空腹を感じていますが、疲れているのできちんとした夕食の準備をする気にはなれません。
食生活が乱れていることに罪悪感を感じながらも、いつものように冷凍食品を温め、テレビを見ながら食べます。
見たいテレビ番組があるわけではありませんが、他に何もする気が起きないので、つまらないバラエティー番組をだらだらと見続けます。
そしていつの間にか、ソファで眠ってしまい、夜中に寝心地の悪さで目を覚まして寝室に向かいます。
ハルコさんは、このような毎日の過ごし方は自分にとって良くないと気づいていました。
日々の憂うつな気分から抜け出すためには、まずは今の生活パターンを変えていかないといけないと、ハルコさんは思うようになりました。
ハルコさんの変化の第一歩
ハルコさんは、帰宅後の行動を変えることに決めました。
ハルコさんの帰宅後の行動
・だらだらテレビを見る
⇒ 一時間以上は見ない。資格の勉強と家事をする
・冷凍食品を食べる
⇒ 簡単なものでも食事を作る。友人を食事に誘う
・テレビの前で寝る
⇒ 早めに寝室に行き、音楽をかけてストレッチをする、リラックスしてから眠る
ハルコさんは、翌日から3日間、新しい行動を試してみて気分の変化をモニタリングしました。
その結果、新しい行動によって憂うつな気分が少なくなることがわかりました。
ハルコさんは夜の時間をもっと気分良く、有意義に過ごすために、色々なことを試してみようと思うようになりました。
変化することは簡単?
あなたはハルコさんの例を読んでどう思いましたか?
新しい行動を試してみるのは簡単だと思いますか?
『ただ思いついたことを試してみたらいいんでしょ?』そう思うかもしれません。
しかし思いついたまま行動するだけでは、なかなかうまくいかないでしょう。
気分が良くなる行動を見つけたとしても、それを習慣になるまで続けることは簡単ではありません。
実際に新しい行動を継続し習慣を変えていくためには、きちんとした知識、準備、計画が必要になります。
行動を変えるための5つのステップ
ここでは5つのステップに分けて見ていきましょう。
< 行動を変える5つのステップ >
ステップ1: 問題の行動を特定する
ステップ2: 新しい行動を考え、選択する
ステップ3: 新しい行動を試す
ステップ4: 結果を評価する
ステップ5: 役立つ行動を生活に取り入れる
この5つのステップをひとつずつ着実に進めていくことで、ハルコさんのように行動と気分に変化を起こすことができるでしょう。
それでは、ひとつずつ見ていきましょう。
問題の行動を特定する【ステップ1】
気分の落ち込みの原因となっている「問題行動」を特定します。
問題行動とは例えば次のような行動です。
<「問題行動」の例 >
・行動しない
⇒ 布団にこもっている、テレビをぼーっと見る
・何事も相手を優先して自分は我慢する
⇒ 言いたいことを言わない、したいことをしない
・頭の中で否定的な考えを繰り返す
⇒ 反すう思考、堂々巡り(第4章を参照)
・否定的な言動を繰り返す
⇒ 常に誰かに愚痴や悪口を言っている、お酒を浴びるように飲む
・仕事や家事、雑用などで忙しすぎる
⇒ 自由な時間、リラックスする時間が取れない
あなたの日常生活の中にある「問題行動」を探してみましょう。
あなたの行動と気分をモニタリングしてみてください。
ほんの些細な習慣の中に問題行動が隠れているかもしれません。
新しい行動を考え、選択する【ステップ2】
問題行動が特定できれば、それに代わる行動を考えることができます。
世間の常識やあなたのこれまでの経験などにとらわれず、できるだけたくさんのアイデアを出してみましょう。
そしてその中から代わりになる「新しい行動」を選びましょう。
「新しい行動」を考えるときのポイントは次の4つです。
① 新しい行動は「具体的か?」(具体的な数字を入れると良い)
② 新しい行動は「本当にあなたの役に立つのか?」
③ 新しい行動は「本当にあなたの望む行動か?」
④ 新しい行動は「実行可能か?」(容易に実行できるか?)
あなたの生活の中で、問題行動に代わる「新しい行動」を考えてみましょう。
上の4つのポイントを参考にしてください。
頭を柔らかくして、できるだけたくさんのアイデアを考えてみてください。
新しい行動は「ただの実験」
新しい行動を実行するときは「これはただの実験だ」と考えます。
ですから成功も失敗もありません。
もし「実行できるかどうか」が心配なのであれば、その試そうとしている行動は今のあなたには少し難易度が高いのかもしれません。
そうであれば、その行動自体を見直してみる必要があります。
『これなら実行するのは簡単だ』と思える小さな行動を選んでください。
試そうとしている行動が少し難しいと感じるようであれば、次のようにするとたいていは難易度を下げることができます。
(a)行動をいくつかに分解する(細分化する)
(b)時間を短くする
(c)回数を少なくする
あなたが自信をもって実行できると思える行動を考えてみてください。
新しい行動を試す【ステップ3】
上で考えた新しい行動を実行してみましょう。
その行動があなたの役に立つか立たないかを判断する前に、少なくとも3日(3回)くらいは試してみてください。
行動するときの不安や恐怖は自然なもの
新しい行動を試す段階までくると、漠然とした不安や恐怖を感じて行動をためらってしまうことがあります。
それは「変化」に対する不安や恐怖かもしれません。
初めてやってみること、初めての経験というのは「未知の世界」に足を踏み入れるようなものです。
未知の世界というと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、初めてする経験によって『自分がどうなるのか分からない』『どんな気分、感情が出るのか分からない』わけですから、心の反応として不安や恐怖が出てしまうのはごく自然なことなのです。
ですから何かチャレンジをしようとするときに、ためらう気持ちや逃げたい気持ちになってしまったとしても、それはあなたの意志が弱いというわけではありません。
不安や恐怖を認めるのは強さの証し
変化に対する不安や恐怖で『前に進みたくない』『逃げ出したい』という気持ちがあるとき、頭に浮かぶフレーズ(考え)はたいてい決まっています。
不安や恐怖で「前に進みたくない」ときに考えること
『こんなことをやって意味があるの?』
『これは自分が本当にやりたいことではない』
『やってもどうせうまくいかない、きっと失敗する』
もしこのようなフレーズ(考え)があなたの頭に浮かぶなら、あなたは変化すること、前に進むことに抵抗しているのかもしれません。
けれども、そう考えること自体がダメなわけではありません。
先にお話したように、変化に対する不安や恐怖が出るのは自然な心の反応です。
ですから良いも悪いもなく『そういう気持ちが自分の中にある』ということを認めてしまうとよいでしょう。
それを認めて受け入れたときに初めて、その不安や恐怖を乗り越えることができます。
善悪の判断を入れずに自分の正直な気持ちを受け入れていくことで「変化すること」「前に進むこと」への心の抵抗は少しずつ小さくなっていきます。
不安や恐れの気持ちが小さくなるにつれて「生活の変化」や「気持ちの変化」を楽しむ余裕が持てるようになるでしょう。
結果を評価する【ステップ4】
新しい行動を試してみた後、しばらく気分の変化をモニタリングしてみましょう。
行動の直後はどんな気分ですか?
30分後は?1時間後は?翌朝の気分はどうですか?
新しい行動が役に立つかどうかを判断する前に、少なくとも3日くらいは試してみてください。
さらに、次の4つの質問に答えて、新しい行動の評価をしてみましょう。
① 新しい行動をして気分が良くなりましたか?悪くなりましたか?変わりませんか?
② この行動をする際に難しい点はありましたか?あれば、それはどのような点ですか?
③ この行動を生活に取り入れようと思いますか?
④ この行動を通して気づいたこと、思ったことは何でしょうか?
役立つ行動を生活に取り入れる【ステップ5】
ここまでの取り組みで、あなたに役に立つ新しい行動がいくつか見つかったと思います。
(見つかっていなければ、1~4のステップに取り組んでみてください。)
あなたにとって良いと思える新しい行動を生活の中に取り入れていきましょう。
その際には、次の4つのポイントを意識するとよいでしょう。
<「新しい行動」を取り入れるときのポイント >
① 少しずつ変化を取り入れる
⇒ 一度に多くの変化を取り入れようとしない。無理をしない。
② 完璧を求めない
⇒ 決めたことの7割くらい実行できればOK!
③ 決めたことを紙に書いて、見えるところに貼っておく
⇒ 手帳やカレンダーなどに書き込むのも良いでしょう。
④ 決意(意志)を家族や友人に話しておく
⇒ 実行の可能性が高まります。困ったときに助けを得やすくなります。
また、新しい行動を生活に取り入れたとき、あなたにとっての「メリット、デメリット」「得るもの、失うもの」を考えてみることも大切です。
変化を求める気持ち、現状を維持したい気持ち
人は変化を求める気持ちがある一方で、多少、苦痛や居心地の悪さがあっても『現状のままでいたい』と思う気持ちもあります。
頭では変化を求めていても、心はそれほど変化を求めていないことがあるのです。
あなたの気持ちをそっと振り返ってみてください。
あなたは本心ではそれほど「良くなりたい」「変わりたい」と望んでいるわけではないのかもしれません。
心の中に「変わらない=安心」という気持ちがあるのかもしれません。
もしそういう気持ちがあったとしても、それは人にとって自然なことです。
人の心の中には、相反する気持ちが同時に存在しているものだからです。
また『変わりたくない、現状のままでいたい』という気持ちがどれだけ強くあったとしても、同時にあなたの中に『変わりたい、前に進みたい、もっと楽に生きられるようになりたい』という気持ちがあることも間違いありません。
なぜなら、その気持ちがゼロ、全く無いということはあり得ないからです。
少しでもその気持ちがあれば、その気持ちに沿って生きることができるはずです。
あなたの心に触れて、心を感じて、あなたの生きる方向、生きたい方向を考えてみてください。
新しい行動を取り入れることで生活に変化が起こります。
たいていはポジティブな変化ですが、それでも今まで経験したことのない「新しい生き方」に居心地の悪さや馴染みのない世界にいるような寂しい感覚を感じるかもしれません。
新しい生き方、変化への不安、恐怖、抵抗など、自分の正直な気持ちを振り返ってみてください。
⇒ 第6章へ「ネガティブ思考をやめる方法」
自分でできる!うつ、不安の克服 / 全8章
第1章「うつを克服する」
第2章「気分と行動の関係を理解する」
第3章「習慣を変える方法」
第4章「逃げない自分になる方法」
第5章「行動を変える方法」
第6章「ネガティブ思考をやめる方法」
第7章「気分、感情に流されない方法」
最終章「人生をコントロールする」