ネガティブ思考をやめる方法

自分でできる!うつ、不安の克服 / 全8章

第1章「うつを克服する」
第2章「気分と行動の関係を理解する」
第3章「習慣を変える方法」
第4章「逃げない自分になる方法」
第5章「行動を変える方法」
第6章「ネガティブ思考をやめる方法」
第7章「気分、感情に流されない方法」
最終章「人生をコントロールする」


第6章「ネガティブ思考をやめる方法」

ネガティブ思考をやめる方法

「反すう思考」とは、同じ思考を何度も繰り返すこと、堂々巡りの考えのことです。

この章では、ネガティブな「反すう思考」を止める方法について見ていきましょう。

ミキオさんの場合

【人物、設定はすべて架空のものです】

ミキオさんは38歳、独身の男性です。

2年前にうつ病と診断され投薬治療を続けていますが、なかなか良くなっている実感はありません。

あるとき、ミキオさんは薬をやめて自分でうつ病を治そうと思い立ちました。

インターネットで情報を集め、うつ病に関する本を読み始めました。

情報を調べていくうちに『子どもの頃の経験がうつ病の原因になっているかもしれない』と考えるようになりました。

うつ病の原因を突き詰めるために、子どもの頃のつらかった出来事を振り返り、書き出してみることにしました。

過去の経験が今の自分にどのように影響しているのか時間をかけて考えてみました。

ときにはわずかに理解が進むことはありましたが、思い出せないことも多く、モヤモヤした気分はあまり晴れることはありませんでした。

「自分を知る」とは?

うつ病を克服するために過去の記憶を掘り起こしていくことは必ずしも必要ではありません。

ミキオさんのように昔のつらかった出来事をすべて思い出していこうと頑張る必要はないのです。

うつ病を克服するためには「自分を知る」ことがとても重要ですが、それは「昔の記憶を思い出す」ことではありません。

「自分を知る」とは、自分の「思考」と「感情」を認識することをいいます。

「自分を知る」とは?
⇒ 自分が「考えていること(思考)」「感じていること(気分・感情)」を認識すること

「メタ認知」とは?

思考と感情を客観的に認識すること、それが「自分を知る」ということです。

このことを心理学用語で「メタ認知」といいます。

「メタ認知」とは?
⇒「思考、感情(気分)、行動(振る舞い、態度)」を自分で客観的に認識すること

そしてその能力のことを「メタ認知能力」といいます。

どのくらい自分で自分の思考、感情、行動を認識できているか、ということです。

うつ病の克服のためには「メタ認知能力」を高めることが重要なテーマになります。

このコラム(全8章)であなたが取り組んでいることはすべて「メタ認知能力」を高めるためのものです。

うつ病のときに頭に浮かぶこと

うつ病のときに考えることのほとんどは「過去の後悔」「現在の拒絶」「未来の絶望」です。

それらが混ざり合い、何度も繰り返し頭に浮かびます。

「過去の後悔」
『これまでの人生、失敗ばかりだ。何もうまくいったためしがない』
『私の両親は最低の人間だ。もっと温かい家庭に生まれたかった』

「現在の拒絶」
『もう何もかも投げ出したい。この現実から逃れたい』
『自分は最低な人間だ。もっとまともな人間に生まれ変わりたい』

「未来の絶望」
『生きていても、この先いいことなんて何にもない』
『自分は何のために生きているのか分からない』

うつ病の人はこのような考えで頭がいっぱいになり、更にそのように考えてしまう自分自身をも否定してしまいます。

『ネガティブなことばかり考えていてはダメだ』
『もっと前向きにならないといけない』

このように自分に言い聞かせますが、その努力はたいていは失敗に終わります。

なぜなら、ネガティブな気分、感情を持ったまま、考え方だけを前向き(ポジティブ)に変えることはできないからです。

「ネガティブ」な気分のまま、「ポジティブ」に考えることはできない

ではもう手の打ちようがないのかというと、そうではありません。

カギを握っているのは「メタ認知能力」です。

メタ認知能力を鍛える方法

ポジティブであれネガティブであれ、考えている内容そのものが問題なのではありません。

思考に飲み込まれて「自分を見失ってしまうこと」が問題なのです。

ネガティブな思考が頭を占領し、そしてその気分にどっぷり沈み込んでしまう。

そうなれば何時間も(もしくは何日も)その状態から抜け出せなくなるかもしれません。

大切なことは、自分の思考と感情(気分)にあなた自身が「気づいている」ことです。

思考と感情に気づいていれば、人生の中での主導権は「あなた」にあります。

つまり「何をするか」という行動の決定権は、常にあなたの手中にあるのです。

このことについてはまた後の章でお話ししましょう。

「メタ認知」「メタ認知能力」が大切であることは先にお話をしました。

では、どうすればメタ認知能力を高めることができるのでしょうか?

それは一言でいえば「自分が考えていること、感じていることに意識を向け続ける」ことです。

これは心の中(頭の中)での意識的な作業になります。

メタ認知能力というのは一種の「能力」ですから一朝一夕に身に付くものではありませんが、先にお話ししたように、自分の内面(考えていること、感じていること)に意識を向け続けることで、この能力は確実に高まります。

では、メタ認知能力が高まっていることはどのようにして分かるのでしょうか?

それは「思考、感情を客観的に見ている自分」に「気づく」ことで分かります。

思考、感情を自分から切り離し「冷静に見ている自分」に「気づく」のです。

メタ認知能力が高まると、自分の「思い込み」や「正直な気持ち(本音)」など、自分自身に対する「気づき」が増えていきます。

そしてそのような気づきが増えることで更にメタ認知能力が高まります。

このような好循環を経て、うつの症状は徐々に改善していきます。

自分の「思考」「感情」に意識を向ける
 ↓
「メタ認知能力」が高まる
 ↓
自分自身への「気づき」が増える
 ↓
更に「メタ認知能力」が高まる
 ↓
更に「気づき」が増える


⇒「メタ認知能力」の向上と「気づき」の好循環が生まれる

うつ病の克服のために大切なことは「メタ認知能力」を鍛えることです。

生活の中で「思考と感情に意識を向け続ける」ことで「メタ認知能力」が高まり、うつ病の克服に向けて大きく前進していきます。

ネガティブな反すう思考

「ネガティブな反すう思考」とは、過去の不快な出来事、心配ごとについて繰り返し考えることです。

多くの人にとっては「考えごとをしている状態」が通常の状態になっているため、自分が「反すう思考」をしていることになかなか気がつきません。

よくある反すう思考には次のようなものがあります。

<よくある「反すう思考」の例>

・将来の不安
 ⇒ 仕事、結婚、お金のことなど

・人間関係の悩み
 ⇒ 親子、夫婦、職場の人間関係など

・過去の傷ついた経験
 ⇒ 自分を傷つけた人への恨みなど

・他人が自分をどう見ているか
 ⇒ 『自分はバカにされている』『きっと陰で笑われている』

・過去の誤った判断
 ⇒ 失敗、挫折した原因を考えてくよくよ後悔する

あなたの思考に意識を向けて「ネガティブな反すう思考」を見張りましょう。

反すう思考をしていることに気づいたら、その思考内容を書き出してみるのも一つの方法です。

最初のうちはとても難しく感じるかもしれません。

自分が反すう思考をしていることになかなか気づけないからです。

焦らずゆっくり時間をかけて自分の思考に意識を向けてみてください。

反すう思考の何が問題か?

反すう思考をすることの何が問題なのでしょうか?

問題点として、次のようなことが挙げられます。

<「反すう思考」の問題点 >

① 反すう思考は「疲れる」
② 反すう思考は「問題解決の意欲をなくさせる」
③ 反すう思考は「注意力を低下させる」

それでは、ひとつずつ見ていきましょう。

① 反すう思考は「疲れる」

次のような心理学の研究があります。

過去の後悔、未来に起こりうる不安について3分間、反すう思考をします。

そしてその反すう思考の前後で気分がどう変化するかを調べました。

その結果は、、、

「ネガティブな反すう思考をした後は気分が悪くなる」のです!
(当たり前の結果すぎて笑えます)

特に何もしていないのに、なぜか気分が落ち込んで、疲れてしまう、、、

それは「ネガティブな反すう思考」によるものかもしれません。

過去の後悔、将来の不安について、自覚がないままに漠然と考え続けてしまっていないか、自分自身をよく観察してみると良いでしょう。

ナツコさんの場合

ナツコさんは職場で翌日のプレゼンの準備をしていました。

上司に資料を見せたところ、一部の間違いを指摘されました。

ナツコさんは思いがけない上司の指摘を受けてひどく落ち込んでしまいました。

『こんな簡単なミスにも気づかなかった…』
『頭が悪いと思われたかも…恥ずかしい』
『他にもミスがあるかもしれない…』
『上司は内心あきれてるに違いない…』
『明日は大勢の人の前で恥をかいてしまうかもしれない…』

そのようなことをくよくよ考えて、作業が手につかなくなりました。

反すう思考をしているうちに疲れてしまい、ナツコさんは間違いを直そうという気持ちも持てなくなりました。

② 反すう思考は「問題解決の意欲をなくさせる」

「こんな些細なことで」と思われるかもしれませんが、ナツコさんのようなケースは珍しいことではありません。

多くの人は、問題に直面したときに解決のための行動をとらず、ネガティブな反すう思考に時間と労力を費やしてしまいます。

そして結果的に自分を追いつめることになります。

反すう思考は、頭の中で「自己批判」を繰り返すことで自信を喪失させ、将来に向けた前向きな気持ちを低下させてしまいます。

そして行動のためのエネルギー「意欲」をなくしてしまうのです。

③ 反すう思考は「注意力を低下させる」

自動車の事故の原因のほとんどはドライバーの「不注意」によるものといわれています。

ドライバーは運転中に考えごとをしていたために、前方や左右の人や車に気づかず事故を起こしてしまうのです。

考えごとをしていると自分の頭の中の世界、空想に没頭してしまい、目の前で起きていることが見えなくなります。

意識がその思考にとらわれ、上の空(うわのそら)になってしまうからです。

これが反すう思考によって注意力が低下している状態です。

「考えること」についての思い込み

「考えること」について、多くの人は次のような「思い込み」を持っているようです。

『問題、悩みごとについて考えることは大切なことだ』
『深く考えることで問題や悩みごとを解決できる』

心理学の研究によれば、「考えることは役に立つ」と信じている人ほど、反すう思考の時間が長くなる傾向にあります。

「考えることは役に立つ」と信じる ⇒ 反すう思考の時間が長くなる

さらに、反すう思考の時間が長い人ほど、うつ病になるリスクが高くなることも分かっています。

反すう思考が長い ⇒ うつ病のリスク要因

「考えること」は役に立たない?

もしパソコンが動かなくなったら「原因は何か」を考えなければなりません。

「考えること」が問題解決のために必要であることは間違いないでしょう。

ところが「考えること」がいつも役に立つとは限りません。

ネガティブな反すう思考のように、考えれば考えるほど気分も状況も悪くなってしまうような思考もあるからです。

では、考えることが役に立つか立たないかは、どのように判断すればよいのでしょうか?

それは次のことを基準にするとよいでしょう。

「考えること」が役に立つとき

① 考える対象や目的が明確なとき
⇒ パソコンの調子が悪いときなど

② 問題の解決が可能であるとき
⇒ 自分で原因を調べて直す、業者に修理を頼む、新品を買うなど

「考えること」が役に立たないとき

① 考える対象や目的が漠然としているとき
⇒ 将来の不安、過去の後悔、人にどう思われているか?などについて考えているとき

② 答えがない、もしくは答えが明確にわからない問題について考えているとき
⇒ あの時どうすべきだったか?これからどう生きるべきか?自分は人からどう思われているのだろう?など

③ ネガティブな気分が強いとき
⇒ 漠然とした不安、イライラ、悲しみ、失望などを感じているとき
(ネガティブな気分が強いときは、極端な考えや反すう思考が起こりやすいため)

反すう思考は「回避(現実逃避)」の手段になる

先のナツコさんの例を振り返ってみましょう。

ナツコさんは自分を責めたり後悔や反省をすることで、今後の失敗を減らすことができると考えていました。

確かにそのようなプラスの面はあるでしょう。

しかしナツコさんにとって大切なことは、今起こっている問題を解決することです。

ナツコさんにとっての「問題の解決」とは「プレゼンの資料を完成させ、翌日に備える」ということです。

しかしナツコさんは、くよくよ考えることで問題の解決に向けた行動を避けてしまいました。

ナツコさんは目の前の問題から逃げているとは思っていませんが、ネガティブな反すう思考によって時間と労力を消耗し、問題の解決を難しくしてしまったのです。

このようにネガティブな反すう思考は、見たくない「現実」から目をそらすための手段となる場合もあるのです。

「感情の昇華」と「反すう思考」

大切な人を失ったり、仕事をなくしたりというつらい出来事があったために、しばらくの間、悲しみに沈んで泣いたり、腹が立ったり、落ち込んだりすることは全く正常な反応です。

これらの感情は数時間から数日、長ければ数週間続くこともありますが、時間が経てば過ぎ去っていくものです。

どのような感情も時間をかけてじっくり感じつくし、味わいつくせば自分の中から消えていきます。

これが「感情を昇華(消化)させるための感情体験」です。

これに対して、反すう思考をすることによって生まれる(作られる)感情は、考え続けている間はずっと出続けることになります。

考えている間は感情を作り続けることになりますから「感じつくせば消えてなくなる」というものではありません。

むしろ時間とともに疲労が溜まっていき、不快な感情、不快な気分は強くなってしまうかもしれません。

これが「反すう思考による感情体験」です。

実際には「感情を昇華させるための感情体験」と「反すう思考による感情体験」の厳密な区別は難しいのですが、時間が経っても気分がスッキリしない場合は、反すう思考によってネガティブな感情を作り続けている可能性があります。

感情を昇華させる「感情体験」
⇒ 溜まっていた感情が解放され、気持ちは楽になる

反すう思考による「感情体験」
⇒ 疲れが溜まるばかりで、気持ちは楽にならない

反すう思考を止める5つのステップ

反すう思考は無意識で自動的に起こるため、簡単には止めることはできません。

けれども少しずつ減らしていく方法はあります。

次の5つのステップにじっくり取り組んでみてください。

時間とエネルギーは必要ですが、反すう思考は徐々に少なくなっていきます。

「反すう思考」を止める5つのステップ

① 反すう思考を認識する
② 反すう思考にラベリングする
③ 反すう思考が出たら行動する
④ 感覚(五感)に意識を向ける
⑤ ネガティブな思考を否定しない

それではこの5つのステップをひとつずつ見ていきましょう。

① 反すう思考を認識する

これまでの説明で、反すう思考についての理解が少しずつ深まっていると思います。

反すう思考を止めるための最も重要なステップ、それは「反すう思考していることを認識する(自覚する)こと」です。

これまでの章でも「思考、感情を認識すること(=メタ認知)」の大切さについてお話をしてきましたが、ここでもやはり「自分で自分のことに気づいている」ということが最も大切なのです。

次のチェックに当てはまれば「ネガティブな反すう思考」をしている可能性が高いでしょう。

□ 過去の後悔、将来の不安を繰り返し考える。
□ 考えているときは気分がすぐれない。
□ 考えるばかりで行動に結びつかず、問題解決に役立っていない。

このチェック項目を参考にして、日常生活の中でネガティブな反すう思考が出ていないか、自分の思考をよく観察してみてください。

② 反すう思考にラベリングする

ネガティブな反すう思考をしていることに気がついたら『これは反すう思考だ』もしくは『今、反すう思考をしている』とつぶやいてみてください。

単に『反すう思考』だけでもOKです。

声に出してもいいですし、心の中でつぶやいてもかまいません。

このようなやり方を心理学では「ラベリング」といいます。

ラベリングとは「ラベルを貼る」という意味です。

「ラベリング」は自分の考えを「客観的に見る」ための有効な方法です。

反すう思考をコントロールする上でとても重要な作業になります。

反すう思考に気づいたら『反すう思考をしているなぁ』と心の中でつぶやいてラベリングしてみてください。

ラベリングすることを意識して生活してみましょう。

続けていくと、反すう思考を認識することが容易になっていきます。

このステップは思考を止めることが目的ではありません。

考えごとや反すう思考をしていることに「気づく」ことが目的です。

③ 反すう思考が出たら行動する

反すう思考に気づきラベリングをしたら、すぐに何かの行動をとるようにします。

たとえば次のようなものです。

散歩をする
買い物に出かける
読書をする
子どもと遊ぶ
筋トレをする
ストレッチをする
音楽を聴く
パソコンをつける
ラジオをつける
部屋や台所の片づけをする
その場で飛び跳ねる
踊る
アロマやお香を焚く
コーヒーをいれる
数回深呼吸をする
瞑想をする、など

どんなささいな行動でもかまいません。

どんな行動でも良いというのは、行動自体に意味があるわけではないからです。

即座に行動に移すことで、反すう思考に引っ張られて考え続けてしまうことを防ぐことが目的です。

ポイントは、反すう思考に気づいたら「すぐに行動する」ということです。

考えてみよう①

反すう思考が出たときに実行する「行動リスト」を作ってみましょう。

行動リストを作るときのポイントは次の3つです。

「行動リスト」を作るときのポイント

1.すぐに行動にうつすことのできる、できるだけ簡単で手軽なものを考える
2.場所、状況に合わせた行動を考える
(場所、状況によって出来ること、出来ないことがあるため)
3.場所、状況ごとに複数の行動パターンを考えておく

また、これは「行動実験」でもあります。

実際にやってみて、うまくいくかどうかを確かめます。

気軽にいろいろな行動を試してみましょう。
(「行動実験」については、1~3章を参照してください。)

④ 感覚(五感)に意識を向ける

行動するときに大切なことは「行動そのものに集中する」ということです。

反すう思考がクセになっている人は、気がつけば考えごとをしています。

散歩をしながら考えごとをしていたら、それは散歩ではなく「考えごとをしている」ことになります。

音楽を聴きながら考えごとをしていたら、それは音楽を聴いているのではなく「考えごとをしている」ことになります。

何か行動をしているときに考えごとをしていれば、本当にはその行動していることにはならないのです。

考えてみよう②

あなたは何をしているときに「考えごと」をしやすいですか?あなたに当てはまるものにチェックをつけてみましょう。

□ 食事をしているとき
□ 仕事をしているとき
□ 車の運転をしているとき
□ 音楽を聴いているとき
□ テレビを見ているとき
□ 歩いているとき
□ 寝る前、布団に入って横になっているとき

その他に何かあれば書き出してみましょう。

感覚(五感)を感じる

思考から離れ、行動に集中する最も優れた方法は、体験している感覚に意識を向ける(五感を感じる)ことです。

行動に集中する方法
⇒ 感覚に意識を向ける、五感を感じる

体験している感覚に意識を向ける、五感を感じるとはどういうことでしょうか?

たとえば、あなたが散歩をしているとしましょう。

そのとき、あなたは何が見えますか?
何が聞こえますか?
どんな匂いがしますか?
体の表面、内部の感覚はどんな感じですか?

体験している中で体で感じていることをただ感じ、味わい、楽しむということです。

たとえば、

何が聞こえるか?
⇒ 鳥の鳴き声、風の音、車の音、木の揺れる音

何が見えるか?
⇒ 庭の木、道端の草花、散歩している犬、空に浮かぶ雲、小さな石、すずめ

どんなにおいがするか?
⇒ 草花のにおい、海のにおい、土のにおい、魚を焼くにおい、春のにおい

肌・体の感じはどうか?
⇒ さらさら風を感じる、日光を浴びて暖かい、心地いい、足の裏の圧を感じてみる

音楽を聴くときは、体をゆったりとリラックスさせ、目をつむって聞こえる音にひたってみましょう。

好きな物を食べるときは、ゆっくりと時間をかけて味わってみましょう。

考えることがクセになっている人にとっては、感覚に意識を向ける、五感を感じるということが最初は難しく感じられるかもしれません。

感覚を感じようとしても意識はすぐに頭(思考)にいってしまうからです。

でも心配は要りません。

続けていくうちにだんだんと「コツ」が分かってきます。

まずは3日間、これを意識して過ごしてみてください。

うまくできていないと思っても、ただ続けてみてください。

考えていることに気がついたら、ただ「感覚」に意識を戻すのです。

「考えないようにする」のではありません。

考えていることに気づいたら「感覚」に意識を戻すだけです。

それを何度も何度も繰り返していきます。

諦めずに続けてみてください。

2週間ほど続けると、あなたは考えごとをしている時間がずいぶん少なくなっていることに気づくでしょう。

そして以前よりも頭がスッキリして、気分も軽くなっていることを実感するはずです。

体験している「感覚」に意識を向けて、五感を感じ、味わってみてください。

その体験を通して様々な気づきや発見があると思います。

⑤ ネガティブな思考を否定しない

『またネガティブなことを考えてしまった』
『いつも同じことを繰り返してる』
『なんて自分はダメなんだ』
『頑張ってもどうせできないし、変わらない』

ネガティブな反すう思考に気づいたら、それを止めようとするのではなく、ラベリングし、感覚、五感に意識を向けていきます。

考えている自分を客観的な視点からただ眺めるのです。

「考えないようにしよう」という試みは必ず失敗します。

なぜなら、思考は自分では感知できない脳の奥の領域から始まるからです。

ですから「考えないようにする」のではなく「考えていることに気づいたら、感覚に戻す」ということを繰り返していくのです。

それを続けていくことで、考えていることに気づきやすくなり、考えること自体も少なくなっていきます。

もうひとつ重要なことは、思考内容が自分にとってネガティブで不快なものであっても、それに対して「善悪の判断をしない」ということです。

なぜなら、善悪の判断をしてしまうと、さらに思考を増やしてしまうことになるからです。

考えている内容がどのようなものであれ、それをただ眺め、認識していくだけなのです。

この章の重要なポイントは次の2つです。

1.「考えないようにする」のではなく、考えていることに気づいたら「感覚」「五感」に意識を戻す

2.どのような考えが浮かんでも、その内容に「善悪の判断」を加えない

日常生活の中で、この2つのことをぜひ意識してみてください。

⇒ 第7章「気分、感情に流されない方法」


自分でできる!うつ、不安の克服 / 全8章

第1章「うつを克服する」
第2章「気分と行動の関係を理解する」
第3章「習慣を変える方法」
第4章「逃げない自分になる方法」
第5章「行動を変える方法」
第6章「ネガティブ思考をやめる方法」
第7章「気分、感情に流されない方法」
最終章「人生をコントロールする」