第5章 新しい生活を手に入れる

この章では、前章で学んだことをふまえて、行動(=習慣)を変えていくためのより具体的な方法について学んでいきましょう。

行動を変えていくための6つの心構え

行動を変えていくためには、きちんとした準備と計画、そして心構えが必要です。

そのための6つの心構えを心に留めておきましょう。

① 新しい行動を「実験」ととらえて実行する。
⇒ 実験なので「失敗」はない。

② 実験することでどのような結果(=気分)になるか興味を持つ。
⇒ 不快な結果になっても落ち込まない。

③ 取り組みやすい行動から試してみる。
⇒ 途中で挫折しないために簡単な行動を選ぶ。

④ 結果に過剰な期待をしない。
⇒ 良い結果ばかりではないし、変化には時間がかかるもの。

⑤ 恥ずかしがらずに実行する。
⇒ 他の人がどう思うかは気にしないで実行する。
 (気になる場合は人には内緒でOK)

⑥「やればできる」ではうまくいかない。
⇒ 実行するためにはきちんとしたステップが必要。

<ハルコさんの場合>
ハルコさんは32歳、独身で一人暮らし。仕事や人間関係に特に不満があるわけではありませんが、仕事が終わって一人になると何か寂しさや憂うつな気分を感じてしまいます。

仕事から家に帰ると、まずソファに座りテレビをつけます。空腹を感じていますが、疲れているのできちんとした夕食の準備をする気にはなれません。食生活が乱れていることに罪悪感を感じながらも、いつものように冷凍食品を温めてテレビを見ながら食べます。

見たいテレビ番組があるわけではありませんが、他に何もする気が起きないので面白くもないバラエティー番組をだらだらと見続けます。いつの間にかソファで眠ってしまい、夜中に寝心地の悪さで目を覚まして寝室に向かいます。

ハルコさんはこのような毎日の過ごし方は自分にとって良くないと気づいていました。

日々の憂うつな気分から抜け出すためには、まずは今の生活パターンを変えていかないといけないとハルコさんは思うようになりました。

ハルコさんの変化の第一歩

ハルコさんは帰宅後の行動を変えることに決めました。

だらだらテレビを見る。
⇒ 一時間以上は見ない。資格の勉強と家事をする。

冷凍食品を食べる。
⇒ 簡単なものでも食事を作る。友人を食事に誘う。

テレビの前で寝る。
⇒ 早めに寝室に行き、音楽をかけてストレッチをする。リラックスしてから眠る。

ハルコさんは翌日から3日間、新しい行動を試してみて気分の変化をモニタリングしました。その結果、新しい行動によって憂うつな気分が少なくなることがわかりました。ハルコさんは夜の時間をもっと気分良く有意義に過ごすために、色々なことを試してみようと思うようになりました。

変化することは簡単?

あなたはハルコさんの例を読んでどう思いましたか?

新しい行動を試してみるのは簡単だと思いますか?「ただ思いついたことを試してみたらいいんでしょ?」そう思うかもしれません。

しかし、思いついたまま行動するだけではうまくいきません。気分が良くなる行動を見つけたとしても、それを習慣になるまで続けることは難しいでしょう。実際に行動を変えていくためには、きちんとした知識、準備、計画が必要になります。

ここでは5つのステップに分けて考えていきます。

ステップ1: 問題の行動を特定する

ステップ2: 新しい行動を考え、選択する

ステップ3: 新しい行動を試す

ステップ4: 結果を評価する

ステップ5: 役立つ行動を生活に取り入れる

この5つのステップをひとつずつ着実に踏んで進めば、ハルコさんのように行動と気分に変化を起こすことができるでしょう。

ステップ1:問題の行動を特定する

気分の落ち込みの原因となっている「問題行動」を特定します。

「問題行動」とは、例えば次のような行動を指します。

■ 行動しない
⇒ 布団にこもっている、テレビをぼーっと見る

■ 何事も相手を優先して自分は我慢する
⇒ 言いたいことを言わない、したいことをしない

■ 頭の中で否定的な考えを繰り返す
⇒ 反復思考、堂々巡り

■ 否定的な言動を繰り返す
⇒ 常に誰かに愚痴や悪口を言っている、お酒を浴びるように飲む

■仕事や家事、雑用などで忙しすぎる
⇒ 自由な時間、リラックスする時間が取れない

<ワーク1>
あなたの日常生活の中での問題行動を見つけましょう。
これまでに記録した活動と気分のモニタリング表を振り返ってもよいでしょう。
一週間ほど時間をかけて、じっくりとあなたの行動と気分をモニタリングしてください。ほんの些細な習慣の中に問題行動が隠れているかもしれません。

ステップ2:新しい行動を考え、選択する

問題行動が特定できれば、それに代わる行動を考えることができます。世間の常識やあなたのこれまでの経験などにとらわれず、できるだけたくさんのアイデアを出してみましょう。そしてその中から代わりになる新しい行動を選びましょう。

新しい行動を考えるときのポイントは次の4つです。

① 新しい行動は具体的か?(具体的な数字を入れると良い)

② 新しい行動は本当にあなたの役に立つのか?

③ 新しい行動は本当にあなたの望む行動か?

④ 新しい行動は実行可能か?(容易に実行できるか?)

<ワーク2>
問題行動に代わる新しい行動を考えてみましょう。
上の4つのポイントを参考にしてください。
頭を柔軟にして様々な角度からできるだけたくさんのアイデアを出してみましょう。

新しい行動は「ただの実験」

新しい行動を実行するときは「これはただの実験だ」と考えます。ですから成功も失敗もありません。もし「実行できるかどうか」が心配なのであれば、その試そうとしている行動は今のあなたには少し難易度が高いのかもしれません。そうであればその行動自体を見直してみるとよいでしょう。

「これなら実行するのは簡単だ」と思える小さな行動を選んでください。少し難しいと感じるようであれば、(a)行動をいくつかに分解(細分化)する、(b)時間を短くする(回数を少なくする)などすると、たいていは難易度を下げることができます。あなたが自信をもって実行できると思える行動を考えてみてください。

ステップ3:新しい行動を試す

<ワーク3>
ワーク2で考えた新しい行動を実行してみましょう。その行動があなたの役に立つか立たないかを判断する前に少なくとも3日(3回)は試してみましょう。

行動するときの不安や恐怖は自然なもの

新しい行動を試す段階までくると、漠然とした不安や恐怖を感じて行動をためらってしまうことがあります。それは「変化」に対する不安や恐怖かもしれません。初めてやってみること、初めての経験というのは「未知の世界」に足を踏み入れるようなものです。未知の世界というと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、初めてする経験によって「自分がどうなるのか分からない」「どんな気分・感情が出るのか分からない」わけですから、心の反応として不安や恐怖が出てしまうのは全く自然なことなのです。ですから何かチャレンジをしようとするときに、ためらう気持ちや逃げたい気持ちになってしまったとしても、それはあなたの心(精神力)が弱いというわけではありません。

不安や恐怖を認めるのは強さの証し

変化に対する不安や恐怖で「前に進みたくない」ときに頭に浮かぶフレーズ(考え)はだいたい決まっています。例えば次のようなフレーズです。

■「こんなことをやって意味があるのか?」

■「これは自分が本当にやりたいことではない」

■「やっても、どうせうまくいかない(失敗する)」

もしこのようなフレーズ(考え)があなたの頭に浮かぶなら、あなたは変化すること、前に進むことに抵抗しているのかもしれません。

そう考えること自体がダメなわけではありません。前にお話したように、変化に対する不安や恐怖が出るのは自然な心の反応です。ですから、良いも悪いもなく「そういう気持ちが自分の中にある」ということを認めてしまうとよいでしょう。それを認めて受け入れたときに初めて、その不安や恐怖を乗り越えることができます。そしてそれを受け入れることはあなたの人間的な強さの証しになります。

善悪の判断を入れずに自分の正直な気持ちを見ていくことで、「前に進むこと」への心の抵抗は次第に小さくなっていきます。不安や恐れの気持ちが小さくなるにつれて、生活の変化や気持ちの変化を楽しむことができるようになるでしょう。

ステップ4:結果を評価する

<ワーク4>
新しい行動を試してみた後、しばらく気分の変化をモニタリングしてみましょう。

行動の直後はどんな気分ですか?
30分後は?1時間後は?
翌朝の気分はどうですか?

これらの気分をモニタリングして記録をつけておきましょう。
新しい行動が役に立つかどうかを判断する前に、少なくとも3日(3回)は試してみてください。

<ワーク5>
次の4つの質問に答えて、新しい行動の評価をしてみましょう。

① 新しい行動をして気分が良くなりましたか?悪くなりましたか?変わりませんか?
② この行動をする際に難しい点はありましたか?
③ この行動を生活に取り入れようと思いますか?
④ この行動を通して気づいたこと、思ったことは何でしょうか?

ステップ5:役立つ行動を生活に取り入れる

<ワーク6>
ここまでのワークで、あなたに役に立つ新しい行動がいくつか見つかったと思います。(見つかっていなければ、1~4のステップに取り組んでみてください。)

あなたにとって良いと思える新しい行動を生活の中に取り入れていきましょう。
その際には、次の4つのポイントを意識すると良いでしょう。

① 少しずつ変化を取り入れる。
⇒ 一度に多くの変化を取り入れようとしない、無理をしない

② 完璧を求めない。
⇒ 決めたことの7割くらい実行できればOK!

③ 決めたことを紙に書いて見えるところに貼っておく。
⇒ 手帳やカレンダーなどに書き込んでも良い

④ 決意(意志)を家族や友人に話しておく。
⇒ 実行の可能性が高まります、困ったときに助けを得やすくなります

<ワーク7>
新しい行動を生活に取り入れることの「メリット」と「デメリット」を考えてみましょう。

変化を求める気持ち、現状を維持したい気持ち

人は変化を求める気持ちがある一方で、多少苦痛や居心地の悪さがあっても「現状のままでいたい」と思う気持ちもあります。頭では変化を求めていても、心はそれほど変化を求めていないことがあるのです。

あなたの心にそっと触れてみてください。あなたは本心では、それほど「良くなりたい」「変わりたい」と望んでいるわけではないのかもしれません。心の中に「変わらない=安心」という気持ちがあるのかもしれません。もしそういう気持ちがあったとしても、それは人にとって自然なことです。人の心の中には相反する気持ちが同時に存在しているものだからです。

「変わりたくない、このままでいたい」という気持ちがどれだけあったとしても、同時にあなたの中に「変わりたい、前に進みたい、もっと楽に生きられるようになりたい」という気持ちもあることは間違いありません。なぜならその気持ちがゼロ、全く無いということはあり得ないからです。少しでもその気持ちがあれば、その気持ちに沿って生きることができるでしょう。あなたの心に触れて、心を感じて、あなたの生きる方向、生きたい方向を考えてみてください。

<ワーク8>
新しい行動を取り入れることで生活に変化が起こります。たいていはポジティブな変化ですが、それでも今まで経験したことのない「新しい生き方」に居心地の悪さや馴染みのない世界にいるような寂しい感覚を感じるかもしれません。
新しい生き方(変化)への不安、恐怖、抵抗など、自分の正直な気持ちを振り返り、紙に書き出してみましょう。時間をかけてゆっくりと考えてみてください。

>>次の章へ『ネガティブ思考をやめる方法』

第1章 うつ・不安の克服「外から内へ」
第2章 気分と行動のつながりを理解する
第3章 習慣を変えるための8ステップ
第4章 逃げない自分になる
第5章 新しい生活を手に入れる
第6章 ネガティブ思考をやめる方法
第7章 気分に流されない自分になる
第8章 人生をコントロールする