大人の発達障害のカウンセリング

大人の発達障害

人間関係や仕事のことで悩んでいる人の中に「大人の発達障害」の傾向のある人は、実際かなりいるものと思われます。

ここでは「大人の発達障害」の問題について要点をまとめ、カウンセリングがどのように役立つかお話ししていきます。

大人の発達障害とは?

 「大人の発達障害」という言葉をよく耳にするようになりました。「大人」と「子ども」では何か違いがあるのでしょうか?大人の発達障害の問題とはどのようなものなのでしょうか?

「大人」と「子ども」の発達障害は何が違うのか?

脳の特性は生まれつきの要素が強いため、大人になってもそれほど大きくは変わりません。そのため、その人の性格や能力、行動様式は子どものときとそれほど変わらないと考えられます。

したがって、もし子どもの頃に何らかの発達障害の傾向があり問題が起こっていたとすると、大人になってからもそれと同じような問題が起こる可能性は高いでしょう。

しかし実際には大人になるにつれて、表面に現れる問題は子どもの頃と比べると少なくなる傾向があります。なぜなら、成長の過程で得た経験や知的能力によって問題に対処できるようになるからです。

しかし、表面的な状況と本人の気持ちには相当なギャップがあることがしばしばです。生活面や仕事で問題が起こらないように、本人は必死の思いで対処しているからです。そのため、仕事や人間関係で問題がないように見えても、本人の気持ちは苦しくてふさぎ込んでいることがあるのです。

発達障害の人は子どもの頃から苦労が絶えない

発達障害を持つ人は、幼少期から相当な苦労をして育ちます。発達障害のタイプによって苦労する内容や度合いは異なりますが、苦労をしないでうまくやっていける人はほとんどいないと思います。

成長するにつれて問題に対処できるようになる?

先にお話ししたように、発達障害の傾向のある人は、子どもの頃の苦労や失敗から本人なりにさまざまなことを学びます。そしてその経験を生かして人間関係を何とかうまくやっていこうとします。成長するにつれてそういった経験や知的能力で問題をカバーできるようになります。

成人(18~20歳)になる頃には、苦労をしながらも、人間関係や状況に何とか対応できるようになります。しかし一方で、高校や大学を卒業して社会人になると、求められる仕事や人間関係が複雑になり、学生の頃には何とか対処できていた問題も乗り越えるのが難しくなっていきます。

大人になってから起こる問題

大人になってから起こる問題というのは、たいていは仕事上のストレスから生じます。そこにはもちろん人間関係もからんできますから、本人にとってはとても複雑な状況に思え、混乱してしまいます。

また大人(社会人)になると、学生の頃にはなかった「責任」というものが出てくるので、苦しい状況から逃げることができず精神的に追い詰められてしまうことがあります。

そのようなストレスを受ける状況が長く続くと、しだいに心身の不調が出始めます。そして元々持っていた脳の特性が悪い方向に作用し、状況はさらに悪化してしまいます。うつ病になるまでストレスを抱え込んでしまう人も少なくありません。

問題が起こる原因とは?

そういった問題が起こるきっかけは、現在の生活、主に仕事と人間関係のストレスですが、その背景にあるのは主に次の2つのことです。

① 発達障害に特有の脳の特性

できることできないこと、得意なこと苦手なことがあり、他の人は当たり前にできることでも、本人にはとても難しいことがあります。特に人間関係が苦手な人が多く、必死に対処しようとしてもうまくいかず、疲れとストレスばかりが溜まってしまいます。また他の人には考えられないようなミスを繰り返してしまうことがあり、自信を失い、落ち込んでしまうことがあります。

② 子どもの頃の心の傷つき

発達障害の人は物心ついた頃から苦労し、悩み、心に深い傷を負います。その主な原因は、親を含めた周りの人の「無理解」によるものです。親や周りの人はその人(子)が我慢をしていたり、傷ついていることすら気がつきません。子どもの頃に負ったその心の傷が、現在のストレスをきっかけにして再び痛み始めることがあります。中には抑うつ、パニック、強迫といった精神症状が出る人もいます。

医療機関での治療には限界がある

まず「大人の発達障害」というものを理解して受け入れてくれる医療機関はとても少ないように思います。うつや不眠、パニックなどの症状の治療はしてもらえますが、発達障害の特性をふまえた治療となると現状では難しいようです。

大人の発達障害の改善は、投薬治療だけでは不十分で、心理面を含めた様々な取り組みが必要になります。

大人の発達障害の改善に向けた取り組み

うつや不眠、パニックなどの症状がある場合は、まず医療機関で投薬治療を行います。そしてそれと並行してカウンセリングなど心理面のケアを行います。

大人の発達障害とカウンセリング

発達障害の治療においてカウンセリングの有効性は認められています。気持ちを落ち着かせ、生活を安定させるためには、発達障害の特性について知的な理解を深めるとともに、自分自身の内面(考え方や感情)の理解が不可欠だからです。

カウンセリングで何をするのか?

本人へのカウンセリングでは、まず日常生活でのストレス、不安や不満など、本人の中にたまっている思いについてお話を聞いていきます。そのような思いを言葉にして自分の中から出すことで、精神的に安定し生活がしやすくなります。

発達障害の人の多くは、家族関係、夫婦関係、職場で問題を抱えています。こうした人間関係や仕事での問題についても話し合います。

カウンセリングでは、自分の脳の特性を知り、自分の内面(主に考え方や感情)を理解し、必要な社会スキルを身につけることで、そういった問題にうまく対処できるようになることを目指します。

職場で起こる問題と「環境調整」

前述したように、改善に向けた取り組みとして、① 自分の特性を理解する、② 自分の内面を理解する、③ 社会スキルの習得、④ 必要に応じて投薬治療 を行います。

そしてそれらに加えて「環境調整」を行うことも重要です。

発達障害をもつ人の多くは職場で困難を抱えています。職場でよく起こる問題は以下のようなものです。

・不注意により同じミスを繰り返してしまう

・窓口でのコミュニケーションがうまくいかない

・職場の暗黙のルールがわからない(空気が読めない)

・上司から頼まれた仕事の意味がわからない、など

これらの問題は、職場で期待されていることにうまく対応できないことから生じます。自己理解と社会スキルだけでは対処しきれない面がありますから、「職場の上司や同僚の理解を得る」「仕事内容を考慮してもらう」など、仕事をスムーズにストレスなく行えるように職場に理解と協力を求めます。これが「環境調整」です。

カウンセリングでは、職場に「何を」「どのように」伝えるかを話し合っていきます。

家族への支援

発達障害の人は苦労しながら生活していますが、同時にその家族も苦労が絶えません。

悩みを抱える家族へのサポートも、本人への支援と同じくらい重要です。

家族の抱える悩み

家族が抱える悩みや問題は、主に以下のようのものです。

① 本人の考えや行動が理解できない

② 本人とどう関わっていいかわからない

③ 仕事のことで苦労をしているようだが、今後どうしていけばいいか分からない(収入面での不安がある)

④ 発達障害以外の精神疾患を抱えている

家族を介して本人への支援につなげる

また、発達障害のある本人がカウンセリングを拒否するケースも少なくありません。そのような場合は、まず家族のみでカウンセリングを受けることになります。

家族とカウンセラーがつながりを保ち、信頼関係を築いていくことが大切です。そしてその信頼関係を礎にして、少しずつ本人と関わっていきます。このように家族を介して本人への支援につなげていきます。

まとめ

大人の発達障害を持つ人は、周囲になじめず、悩みを誰にどのように相談したらいいのかわからず孤立しがちです。カウンセリングでは、本人のそのような特性や気持ちに配慮しながら、さまざまなテーマについて話し合っていきます。その主なテーマは次のようなものです。

① 発達障害について学び、自分の特性を理解する

② 自身の考え方や行動パターンを振り返り、理解を深める

③ 仕事や人間関係のストレスを緩和するための対策

本人への支援とは別に、家族に向けた支援もとても大切です。家族が精神的に安定することは、本人の精神的な安定につながるからです。


当オフィスでは、大人の発達障害をお持ちの方(その傾向のある方)、およびそのご家族への心理サポートを行っています。医療機関で治療中の方、自分自身の性格や特性についてお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。