うつ病の原因については、まだ不明な点も多いのですが、少しずつ解明が進んでいます。
これまでの研究から得られた仮説にもとづき、さまざまな発症メカニズムが検討されています。
現在は、① 環境（ストレス）、② 性格、③ 遺伝 の３つが影響し合って発症するという医学モデルが広く受け入れられています。
つまり、何かひとつの原因があるのではなく「いくつかの要因が重なりあって発症する」という考え方です。
うつ病の原因／４つの「仮説」
まず、これまでに提唱された仮説について説明しましょう。
うつ病の原因として有力視されている仮説は、主に次の４つです。
うつ病の原因／４つの仮説
①「性格」説
② モノアミン仮説
③「脳内炎症」説
④「遺伝」説
「性格」説
以前はうつ病になる人は「性格に問題がある」と考えられていました。
個人の「性格」や「考え方」がうつ病の原因との見方です。
たとえば、このような性格です。
● 几帳面でまじめ
● 責任感が強い
● こだわりが強い
● 我慢して、頑張りすぎてしまう
たしかにこのような性格の人はストレスをため込みやすく、うつ病になりやすいと考えられます。
このような性格を「メランコリー親和型の性格」といいます（「メランコリー」は英語で「憂うつ」という意味）。
しかし近年の研究では、強いストレスにさらされると、性格とは関係なく、誰でもうつ病にかかる可能性があることが分かってきました。
つまり「性格」や「考え方」という面だけでは、うつ病の原因について十分に説明できないのです。
（とはいえ、個人の「考え方」がうつ病と強い関係があるのも事実です。認知行動療法という治療法は、うつ病になりやすい「考え方」を見直し、変えていくことに主眼をおきます。）
「モノアミン仮説」
これまで提唱されてきた仮説の中で、最も有力とされたモデルに「モノアミン仮説」があります。
「モノアミン」とは気分や意欲に関係する「神経伝達物質」の総称です。
「モノアミン」
⇒ セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質
「モノアミン仮説」とは、脳のある部分で「モノアミンが欠乏」することにより、脳内での情報伝達がうまくいかなくなっているのではないかという仮説です。
この仮説に基づいて、これまで多くの抗うつ薬が開発されてきました（その代表が「SSRI」）。
しかしこの仮説についても不明な点が多く、研究結果に対して様々な疑問の声もあがっています。
現在はこのモデルは主流の考え方ではなく、あくまでひとつの仮説という位置づけです。
「脳内炎症」説
強いストレスに長時間さらされると、脳機能の低下や抑うつ症状が起こることが知られています。
ストレスが脳にダメージを与えることは以前から分かっていましたが、その詳しいメカニズムは不明でした。
近年、医学の分野の研究で「ストレスとうつ病の関係」を示す発見がありました。
ストレスによる抑うつの誘導に自然免疫系による「脳内炎症」が重要であることを発見
外部リンク：「うつ病における脳内炎症の役割の一端を解明／神戸大学医学研究科」
ストレスによって脳内で「炎症」が起こり、それが脳へのダメージになるというのです。
以前から、脳内炎症がうつ病と関係しているのではないかと推測されていましたが、この研究ではその一部が解明されたことになります。
「遺伝子」説
遺伝子解析の進歩によって、うつ病に関係しているとみられる遺伝子が報告されています。
そのひとつに「リボソーム遺伝子」というものがあります。
うつ病やストレスぜい弱性に「リボソーム遺伝子」が関与していることが明らかに
外部リンク：「リボソーム遺伝子がうつ病に関わることを発見／国立精神・神経医療研究センター」
ストレスに対しての強さ（耐性）が遺伝子によってある程度決まっているということです。
近年では、遺伝子が「性格」と強く関係していることが分かってきており、「性格のおよそ半分は遺伝で決まる」との研究報告もあります。
（注）リボソーム遺伝子はストレス耐性に影響を与えますが、それだけでうつ病になるかどうかが決まるわけではありません。遺伝的要素はうつ病発症の要因のひとつということです。
現在の医学モデル
うつ病の原因については、医学、心理学、社会学など多方面から研究が行われています。
近年ではこれらの研究の成果が統合され、うつ病についての理解が深まってきています。
現在の医学モデルでは「環境、性格、遺伝の３つの要因が影響しあって発症する」とされています。
＜うつ病発症の医学モデル＞
① ストレスとなる環境
② 個人の性格、考え方
③ 生まれ持った気質、遺伝
この３つが相互に影響し合って発症する
実際に治療者の多くは、このモデルに基づいて治療方針を決定しています。