
『家族(子ども、夫、妻)が悩んでいるようだけど、正直に打ち明けてくれない…』
『職場の上司(部下、同僚)と良い関係がつくれない…』
人間関係におけるトラブルの多くは、お互いの気持ちが通じ合っていないところから起こります。
このコラムでは、良い人間関係を築くための「傾聴のコツ」を10のポイントにまとめてお伝えします。
大切なことは「相手の話を聞く」こと
人は「話すこと」「聞くこと」を日常の中でとくに意識をせずに行っています。
しかし、相手への配慮を欠いて一方的に話したり、聞いているふりをして「聞き流す」といった態度では、良好な人間関係を築いていくのは難しいでしょう。
◎ 自分の気持ちをきちんと伝わるように話す
◎ 相手の本音の気持ちにしっかり耳を傾ける
そのようなコミュニケーションがとれて初めて「良い人間関係」を築いていくことができます。
「話題の豊富さ」「話のうまさ」は重要ではない
心理学の分野において、人間関係を円滑にするためのコミュニケーションの方法が研究されています。
人間関係を良くするために最も重要なことは、一言でいえば『相手の話をしっかり聞く』ということに尽きます。
「うまく話す」ことや「話題の豊富さ」は人間関係において、それほど重要ではないのです。
このコラムでは「話を聞くこと」=「傾聴」の大切さと、その方法(コツ、テクニック)についてお伝えしていきます。
職場の人間関係や家族、恋人など、身近な大切な人たちと良い関係を築くことができれば、生活がより豊かなものになるでしょう。
いままで会話が苦手だった人も、ここでお伝えする「会話のコツ」「傾聴のコツ」を生活の中で実践していくと、人間関係が驚くほどスムーズになっていくことを実感するはずです。
人は「分かってもらえた」と感じたとき、心に変化が生まれる
人は生きている限り、さまざまな悩みや問題に直面します。
ときには立ち直ることができないと思うほど、深く落ち込んでしまうこともあるでしょう。
心が苦しいとき、人はその気持ちを『分かってもらいたい』と心から願います。
分かってもらえたところで、問題が解決するわけでも、悩みが消えて無くなるわけでもありません。
それでも人に「分かってもらう」ことで、八方塞がりの暗い気持ちから一歩抜け出して、前に進むことができるのです。
それはなぜでしょうか?
それは、自分の気持ちを『分かってもらえた』と心から感じることができたとき、
「自分の気持ちに素直に向き合い、自分の心の声に耳を傾けることができるようになる」
からです。
このような気持ちの変化について、アメリカの臨床心理学者 カール・ロジャース は、次のように言っています。
『私が自分自身を受け入れて、自分自身に優しく耳を傾けることができるとき、そして自分自身になることができるとき、私はよりよく生きることができるようです。・・・言い換えると、私が自分に「あるがままの自分」でいさせてあげることができたとき、私はよりよく生きることができるのです』
(カール・ロジャース、Rogers,C.R. 1902-1987)
相手が打ち明けた悩みに対して、聞き手はアドバイスやなぐさめの言葉をかける必要はありません。
人が自分のことを無条件に受け入れてくれたと感じたとき、気持ちに大きな変化が起こり、より自分らしく生きようとする前向きな気持ちが生まれるのです。
このような気持ちの変化は、深刻な悩みを抱えた人にだけ起こるものではなく、家庭や職場での日常の人間関係においても起こります。
「傾聴」することの大切さ
相手に『分かってもらえた』と実感してもらうために必要なことは何でしょうか?
それは「その人のそばに居て、心を込めて丁寧に話を聞こうとする姿勢」です。
カウンセリング理論では、このような聞く姿勢のことを「傾聴(active listening)」といいます。
相手のことを無条件に受け入れて、相手の心に寄り添いながら共感して話を聞くということです。
それができるだけで、相手は『私のことをすごく大切に思ってくれている』と感じるようになります。
悩んでいる人に「励まし」や「アドバイス」は不要
間違った話の聞き方のひとつに、悩みごとを相談されたときに、なんとか相手の役に立ちたくて、すぐに解決策などのアドバイスをしてしまうということがあります。
それでは相手に「分かってもらえた」と実感してもらうことは難しいでしょう。
相手はあなたにアドバイスを求めているわけではなく、あくまでも話を「聞いてほしい」のです。
アドバイスをしたくなったら、ぐっとこらえることが大切です。
そして静かに話を聞き続けるのです。
このような話の聞き方ができていると、話している相手は次第に「ふたりでいながら、ひとりでいるような」感覚になっていきます。
それは、自分自身の内なる声に耳を傾けることができている状態で、うまく自問自答ができているということです。
悩むことに疲れた人が、その思いを静かに聞いてくれる人に出会い、すべてを語りつくせたと感じたら、どのようなことが起こるのでしょうか?
悩んでいる人が、自らの力で悩みを乗り越えていく
不思議なことに、話を聞いてもらっているうちに、それまで心の大部分を占めていた不安や悩みがあまり気にならなくなるのです。
そして『自分は本当はこんなふうに思っていたんだ』と自分の本当の気持ちに気づき、受け入れられるようになります。
このような話の聞き方は、深刻な悩み相談を聞くときだけではありません。
普段の生活においても、このような姿勢で話を聞くことがとても大切です。
聞き手が悩んでいる人にできる最大の援助は、相手が自分の心の声に耳を傾け、自ら結論を見つけられるように手助けをすることです。
なぜなら、悩んでいるその人自身が気づいたこと、決めたことこそが本質的な問題解決に結びつくからです。
「傾聴」大切な10のポイント
① アドバイスをしない
②「あいづち」はそのまま返す
③「うなづき」はゆっくり大きく
④ 大事なときだけ目を合わせる
⑤ 相手を無理に励まさない
⑥ 相手と一緒に喜んであげる
⑦ 問題を指摘するときの伝え方
⑧ 善悪の判断はしない
⑨ 余計な口をはさまない
⑩ 鏡のように反射する技術
①アドバイスはしない

アドバイスをしたくなったら要注意
相談を持ちかけられたときに、聞き手がすべき大切なことは、相談者が安心して話せるような雰囲気をつくることです。
相談者が「安心できない」と感じてしまう原因のひとつに、聞き手の安易な「アドバイス」があります。
「アドバイス」は基本的に相手に「安心感」を与えることができません。
なぜなら、アドバイスというのは『あなたのここが問題だから、こう変えたら?』という、相手を否定するニュアンスが含まれるからです。
たとえ、相手の悩みにそった適切なアドバイスであったとしても、相手は自分を否定されたと感じたり、上から目線の偉そうな態度に感じてしまう場合があるのです。
そのため、安易にアドバイスをする人には、心を開いて悩みを話すことに抵抗を感じてしまうのです。
そのアドバイスは「相手のため」になっているか?
アドバイスをしたがる人は、アドバイスによって「相談者の悩みを軽くしてあげたい」というよりも、アドバイスをすることによって「自らの不安」を軽くしようとする「隠れた意図」がある場合があります。
つまり、相談者の悩みに向き合い理解を深めていくのは聞き手にとっても楽ではないので、適当なアドバイスをすることでその話を早く終わらせ、聞き手自身の不安や苦痛を解消しようとするのです。
(このような心の動きは、聞き手自身も気がついていません。)
また、話を少し聞いただけでアドバイスをしたがる人は、話の一部分だけを切り取って、自分の経験や価値観にもとづいた「自分目線」の解釈でアドバイスをしているに過ぎません。
そのため、往々にして相手の気持ちに添っていない「アドバイスの押し付け」になってしまうのです。
また相談者ではなく、聞き手の方が一方的に話をしている場合も注意が必要です。
聞き手が自身の考えや経験を語ることに酔っている場合があり、そのようなときは相談者は相手の話を聞くのを苦痛に感じているものです。
大切なことは、自分の考えを「押し付けない」こと
とはいえ、聞き手が自分の考えを述べたり、アドバイスをすることがすべてダメというわけではありません。
「良いアドバイス」として相談者に受け入れられ、役に立つ場合も、もちろんあります。
それは、相談者がアドバイスを受け取る「心の準備」ができているときに、相談者が聞きたかった情報を「押し付けることなく」伝えられているときです。
そのようなときは、相談者は自身を否定されたと感じることなく、アドバイスや意見を有益な情報として聞き入れることができます。
大切なことは、相談者にアドバイスを受け入れる準備ができているかを慎重に判断し、自分の考えや意見を「押し付け」にならないように配慮しながら、相手に伝えることです。
②「あいづち」はそのまま返す

実は「最もシンプルなあいづち」が最も良いあいづちになるのです。
それは「相手が話した言葉をそのまま返す」というあいづちの打ち方です。
返す言葉は、相手の話した内容の中で「気持ちを表している言葉」を選びます。
例えば、
『最近、人間関係がうまくいかなくて。。。なんか疲れちゃったんだよね。。。』
という話をされたとしましょう。
この場合だと、
『うまくいかないんだね。。。』
『疲れちゃったんだね。。。』
などと、相手が話した内容の中から「気持ちを表している言葉」をそのまま返します。
そうすることで、相手は話を聞いてもらっていると実感でき、聞き手に対して安心感と信頼を感じるようになります。
ポイントは、気持ちを表す言葉を「相手が言った通りに返す」ということです。
相手の言葉を言い換えない
ここで、悪い例を挙げておきましょう。
相手の言葉を「言い換え」てしまうと「悪いあいづち」になってしまうという例です。
(悪い例1)
話し手『最近、夜一人でいると、なんか寂しくなるんだよね。。。』
聞き手『孤独感があるんですね。。。』
(悪い例2)
話し手『もう自分は何をやってもうまくいかなくて、本当に嫌になるんです。。。』
聞き手『絶望的な気持ちになるんですね。。。』
このように、話し手の表現を「言い換え」てしまうと、話し手は安心して話を続けることができなくなります。
言葉を文字にしてみるとよくわかりますが、この2つの例の場合、どちらのあいづちの言葉も「より深刻な」表現に言い換えられています。
このような聞き方をすると、相談者は話せば話すほど気分が沈んでしまうかもしれません。
また、場合によっては、話し手の表現を「より軽い」言葉に言い換えてしまうこともあります。
いずれの場合も、聞き手の返す言葉は話し手の気持ちとはズレているため、話し手は『わかってもらえている』という感じがしません。
要点のまとめ
ポイントは、話し手の気持ちを表している言葉を「言い換えず」に「そのまま返す」ということ。
寂しいなら「寂しい」、嫌になるなら「嫌になる」と、そのままの表現を使うことで、相手は安心して話を続けることができるのです。
「最もシンプルなあいづち」が「最も良いあいづち」になるということを覚えておくとよいでしょう。
③「うなづき」はゆっくり大きく

話を聞く際の「あいづち」は「言葉」だけではありません。
相手に安心感を与え、話しやすい雰囲気をつくるためのあいづちのひとつに「うなずき(頷き)」があります。
うなずくときのポイントは、相手の話に合わせて「大きく、深く」頭を上下に動かしながら、しっかりとうなずくことです。
うなずきは、相手に対して『私はあなたの話をきちんと聞いていますよ』ということを、目に見える形で伝える重要なサインになります。
話し手は、聞き手が「きちんと話を聞いてくれているか」表情やうなずきを無意識のうちに見て、確認しながら話をしています。
そのため、聞き手のサイン(表情やうなずき)が明確で分かりやすいと、話し手も安心して、気持ち良く話を続けることができるのです。
うなずきは「ゆっくり」としたリズムで
うなずきは、相手の話のペースにあわせて行うことが大切です。
相手の話すテンポより「ゆっくり」としたリズムでうなずき、『そうですか』『そうなんですね』といった相手の話の邪魔にならないシンプルなあいづちの言葉をかけるとよいでしょう。
そのとき、相手よりも少しだけ声のトーンを落として、静かな声で話すというのが基本です。
相手よりも「ゆっくりしたリズム」で「声のトーンを落として」あいづちを打つと、相手は落ち着いた気持ちで話をすることができます。
「ゆっくり」としたあいづちで、相手は安心する
早すぎるうなずき、あいづちは良くありません。
相手にとっては「早く話して」とせかされているような気持ちになったり、自分の話している内容と聞き手の反応がズレている気がして『自分の話をちゃんと分かってくれているのかな?』と不安に感じてしまうことがあるからです。
とくに初対面の相手や深刻な悩みの相談の場合は、少しオーバーなくらいゆっくりと、そしてより大きく、深くうなずくとよいでしょう。
初対面の場合は、当然ながら話し手は聞き手のことをよく知らないので、聞き手の表情やしぐさを気にしながら話をしています。
なので、いつもよりも少しオーバーなくらい「ゆっくり、大きく、深く」うなずいたり、あいづちを打つことで、「あなたの話をしっかり聞いていますよ、ちゃんと理解していますよ」というメッセージが伝わり、相手の不安な気持ちを和らげることができるのです。
要点のまとめ
うなずいて、あいづちを打つときのポイントは「ゆっくり、大きく、深く」。
それを意識して話を聞けば、相手はきちんと話を聞いてくれていると感じて、安心して胸の内を話してくれるはずです。
④大事なときだけ目を合わせる

会話をするとき、相手のどこを見ながら話をすればいいのでしょうか?
相手がリラックスして話をするためには、聞き手の「目線の置き方」も大切なポイントになります。
日本人は目を合わせることが苦手
アメリカやヨーロッパ、西洋の文化圏では「eye to eye contact」、話し手と聞き手はお互いに「しっかり目を合わせる」ことが大切だと考えます。
しかし、アジア人、とくに日本人は、この「目と目を合わせる」ことが苦手な人が多いといわれています。
目を合わせると「緊張」してしまうためです。
相手の顔を「ぼんやり」と見つめる
常に目を合わせる「eye to eye contact」のコミュニケーションは、日本人には合わないやり方かもしれません。
そこでひとつのやり方として、相手の目を直接見ずに、顔全体を「ぼんやりと見る」という目線の置き方があります。焦点を定めずに、顔全体をぼんやりと見るのです。
また別のやり方として、相手の目と目の間、もしくは眉の間あたりを見るという方法もあります。
このような目線の置き方でも、相手は「きちんとこちらを見てくれている」と感じます。
常に目を見て話すより、大事なときだけ目を合わせる
いつもはそのように相手の顔をぼんやり見て話をすればいいのですが、ここぞというとき、相手が大事な話を切り出したときや、聞き手が自分の話をきちんと伝えたいときは、相手の目をしっかり見て話をするとよいでしょう。
ポイントは「常に目を見て話すのではなく、大事なときだけ目を合わせる」ということです。
そうすることで、お互いがリラックスしつつ、理解してほしい要点はしっかりと伝えることができるでしょう。
90度の角度で向き合うとリラックスして話ができる
また、話を始める前に、立つ位置、座る位置を考えておくことも大切です。
顔と顔を「真正面」にして向き合うと、目のやり場に困ってしまい、話に集中できなくなることがあります。
とくに初対面やあまり親しくない間柄だと、緊張してしまう場合もあるでしょう。
それを回避するために、最初から横並びかお互いに90度の向きに立って(座って)話をすると決めておくとよいでしょう。
横並びか90度の角度で向き合うと、自然に目線を別の方向に向けることができるので、自分だけでなく相手も緊張することなく話をすることができます。
体の向き、目の合わせ方を工夫することは、お互いにリラックスして話をするための重要なポイントといえます。
⑤ 相手を無理に励まさない

『最近、彼氏と別れて、、、そのことばかり考えて疲れちゃって。。。家のことも全然できてないし、仕事もやる気が出なくて。。。』
友人からこのような悩みを相談されたら、どのように答えるのが良いのでしょう?
落ち込んでいる相手を無理に励ます必要はない
多くの人は、相手の力になってあげたくて、あの手この手で励ましたり、なぐさめたりするのではないでしょうか。
『大丈夫、ゆっくり休めばすぐに元気になるよ』
『あなたなりによく頑張っていると思うよ』
など、いろいろな励まし、なぐさめの言葉があるでしょう。
けれども、このような励ましの言葉をいえばいうほど、相手は本音の気持ちを話すことができなくなってしまう場合があります。
なぜなら、このような相談をしてくる人の多くは、そこで励ましやなぐさめを求めているわけではないからです。
ただ自分の話を聞いてほしい、苦しい気持ちをわかってほしいと、それだけの思いで話に来ているのです。
このようなときに、励ましやアドバイスの言葉をかけると、逆にプレッシャーに感じてしまう場合もあるのです。
落ち込んでいる人に、なぐさめやアドバイスは不要
では、このようなとき、どのように接すればいいのでしょうか?
ここで大切なことは、相手が訴えているつらい気持ちに寄り添いながら「丁寧に相手の話を聞く」という姿勢です。
「傾聴」といわれる接し方です。
相手のことを無条件に受け入れて、相手の気持ちに寄り添いながら共感して話を聞くのです。
そこには、なぐさめの言葉やアドバイスは必要ありません。
ただ相手の気持ちや言葉に静かに耳を傾けるという、その姿勢だけでいいのです。
落ち込んでいる人から相談されたときには、この「傾聴」の姿勢を意識するとよいでしょう。
励まし、なぐさめ、アドバイスの言葉は不要であることを覚えておきましょう。
⑥ 相手と一緒に喜んであげる

これまでは「悩みごと」を持ちかけられたときの接し方、聞き方のポイントについてお話ししてきました。
今回は、相手が「良い報告」をしてきたときの接し方についてです。
相手が良い報告をしてきたら、一緒に喜んであげよう
相手が「良い報告」をしてきたときに上手に聞くポイントがあります。
心理学のひとつである「アドラー心理学」では、部下や子どもの意欲を高め、前向きな行動を促すためには「勇気づけ」が必要だと考えます。
「勇気づけ」で大切なことは、「部下が仕事で結果を出した」「子どもの成績が伸びた」という場合に、その「結果」について褒めるのではなく、結果を出すために頑張った「努力」を共に喜ぶということです。
結果に結びついた「努力」に対して『うれしい』『良かったね』『がんばったね』という気持ちを相手に伝えるのです。
一緒に喜ぶと、信頼関係も高まる
たとえば、子どもが勉強を始めても、いつもなら10分もすれば放り出すのに『今日は1時間も頑張った』と親であるあなたに報告しに来たとしましょう。
そのとき『そうなんだ、がんばったね! お母さん(お父さん)もうれしいな!』と、努力したことを一緒に喜ぶのです。
人は、大切な人に喜んでもらえると前向きな気持ちになるものです。
これは親と子の関係だけではなく、会社の上司と部下の関係でも同じです。
結果を出した部下を褒めるときも、
『すごく頑張っていたからなぁ。自分もうれしいな!』
というように伝え、部下と一緒に喜んであげるとよいでしょう。
そうすると、部下はさらに前向きな気持ちで頑張るようになり、お互いの信頼関係も高まっていくでしょう。
「わたしの気持ち」を伝える
この会話の技術には、ひとつ大切なポイントがあります。
それは、子どもや部下への返答に、「お母さんも」「自分も」というように一人称の主語である「わたし」が入っている点です。
これは「アイ メッセージ(I message)」と呼ばれるもので、「わたし」を主語にして「喜び」を伝えることが大切なポイントになります。
二人称を主語にする「ユー メッセージ(You message)」では相手に対して押し付けがましくなるので、一人称の「アイ メッセージ」が好ましいのです。
このような伝え方を意識すれば、自分の気持ちが相手に素直に伝わりやすくなります。
要点のまとめ
・「結果」よりも「努力」をともに喜ぶ
・「アイ メッセージ」で「わたしの気持ち」を伝える
この2つのポイントを覚えておくとよいでしょう。
そうすることで、家族や職場での信頼関係が高まり、人間関係がより楽なものになるでしょう。
⑦ 問題を指摘するときの伝え方

上司は部下に対して、業務上の注意や問題の指摘をしなければならないことがあります。
否定的な指摘をすると、部下は気分を悪くして不機嫌になったり、自分を守ろうとして「言い訳」や「責任転嫁」に必死になるかもしれません。
これは親子関係、夫婦関係でも起こりうることです。
注意や指摘を相手に素直に聞き入れてもらうことは、思いのほか難しいことです。
相手に「問題」を指摘するときの伝え方
こちらの思いを伝え、聞き入れてもらうためには、「伝え方(態度)」が重要です。
たとえば、遅刻をした部下に注意するとしましょう。
本人は反省していますが、ここで例えば、
『君はそんなふうに時間にルーズだから仕事もできないんだぞ』
『時間を守れないやつは社会人として失格だ』
などと、怒りにまかせて遅刻したことだけでなく、能力や人格までも否定してしまうと、相手は指摘された内容を素直に受け入れることができなくなるでしょう。
部下に改善してもらいたいのは、あくまで「遅刻」に関することです。
感情にまかせて言う必要のない批判までしてしまい、部下との関係を悪くしてしまうケースは少なくないでしょうか。
「行動のみ」にしぼって伝える
では、相手に注意や指摘を聞き入れてもらうためには、どのような伝え方をするとよいのでしょうか。
その効果的な方法のひとつに「問題になっている行動のみを指摘する」という伝え方があります。
「行動のみ」というところがポイントです。
上司の目から見て、部下の性格や勤務態度など普段から気になっていることがあるとしても、いま起こっている問題と直接関係のない話であれば、そのことには一切触れず、改善してもらいたい問題行動のみにしぼって伝えるということです。
先の部下の遅刻の例では、たとえば、
『遅刻は困るので、何とか協力してもらえないか?』
というように、「遅刻」のみに焦点を当てて伝えるのです。
穏やかな口調で、短い言葉で伝える
そのときに、責めるような口調ではなく「ゆっくり」と「穏やかに」伝えると、部下はより聞き入れやすくなるでしょう。
その他にもいくつかポイントがあります。
・周りに人がいない所で伝える(他の人に聞こえないようにする)
・できるだけ短い言葉で伝える
このように伝えると、部下の心理的な抵抗が小さくなり、聞き入れやすくなります。
要点のまとめ
人に問題や間違いを指摘するときのポイントは、
・問題行動のみを指摘する(関係のない話を織りまぜない)
・周りに人がいない所で伝える(他の人が聞こえないように)
・穏やかな口調で、短い言葉で伝える(責められている感じを与えない)
このような伝え方は上司と部下の関係だけでなく、親子関係、夫婦関係でも、もちろん有効です。
相手に何か言いにくいことを指摘したいときは、ぜひこの方法を試してみてください。
⑧ 善悪の判断はしない

「あなたが悪い」は禁句
たとえば、妻子ある男性を好きになり、不倫関係になってしまった女性がいるとしましょう。
世間一般の価値観では、不倫は肯定的には受け入れられないでしょう。
しかし、恋愛は「理性」でするものではありません。
お互いに好きになってしまい、道徳的には悪いことだと分かっていながらも関係を持ってしまったのです。
そして、その苦しい胸の内をあなたに相談してきました。
そんなとき、彼女にどのような言葉をかけてあげるのがよいのでしょうか?
善悪の判断をしてはいけない
『相手の奥さんや子ども、あなたの将来のことを考えたら絶対良くないことだよ』
『問題が大きくなる前に、今すぐ別れたほうがいいよ』
このような、一見「正しそう」なアドバイスをすることもできるでしょう。
しかし、聞き手が「良い悪い」の価値観にとらわれていると、相手はそれを敏感に感じ取り、正直な思いを話せなくなってしまいます。
良くないことをしていると本人も分かってはいるけれども、それでもどうしようもなく好きになってしまったのです。
それなのに、相談した相手から『それ良くないこと』とバッサリ否定されてしまっては、ますます追い詰められた気持ちになってしまいます。
大切なことは、相談者の思いを受け止めること
聞き手として、ここで相手の話をきちんと聞いてあげることができれば、相手も自分の気持ちに素直になることができ、自身の心の声に向き合うことができるようになります。
そのために大切なことは、相手の話している内容について「善悪の価値判断をしない」ということです。
必要なことは善悪の判断ではなく、「相手の気持ちに寄り添い、しっかりと思いを受け止めていく」ことなのです。
思いを受け止めてもらうと、自分の気持ちに素直になる
今回の不倫の相談であれば、たとえば次のような言葉を、穏やかな口調で伝えてみるとよいでしょう。
『自分でもよくないことだって思っているだよね。でも相手の人への気持ちが抑えられなくて、その気持ちをどうしたらいいのかも分からなくて、悩んでいるんだね』
このように相手の思いを受けとめ、それを伝え返しながら話を聞いていると、人はなぜか自然と自分の心に素直になっていきます。
良い悪いといった判断をされたり、アドバイスを聞かされることなく、ただただ「寄り添ってくれる人がいる」と心の底から実感できれば、人は自分の心に向き合うようになり、自分にとって「大切なことは何か」を考えるようになります。
そして、その思いをもとに、相談者は自分の力で悩みを乗り越えていきます。
⑨ 余計な口をはさまない

人から悩みの相談を受けたとき、話を聞きながら「言いたいこと」が頭に次々と浮かんできて、ついつい口にしてしまいます。
相手の話をさえぎってまで言ってしまうこともあるでしょう。
そうすると相手は、聞き手に対し、徐々に失望を感じるようになります。
気持ちがつらいときは、ただ話を聞いてほしい
例えば、子どもが学校でいじめに遭い、そのつらい胸の内を親が聞いているとしましょう。
最初は子どもの話をじっと聞いているのですが、弱音やグチを聞いているうちに、しだいに『励ましたい』『アドバイスをしたい』という気持ちがむくむくと大きくなります。
そして子どもの話に覆いかぶせるように親が話し始めます。
しまいには、
『そんなことはもう気にしなくていい』
『相手に言い返してやるくらいの強い気持ちを持ちなさい』
などと、説教のような流れになってしまいます。
もちろん、親としては子どものためにいろいろと教えたり励ましたりしたくなる気持ちは自然なものでしょう。
しかし子どもにとっては、つらい気持ちのときは「ただ話を聞いてほしい」だけなのです。
親自身の経験やアドバイスを聞きたいわけではないのです。
親が口をはさめばはさむほど、子どもは『自分のことを全然わかろうとしてくれない!』というイラ立ちの感情を持つようになります。
やがて、親に話してもムダだと思うようになり、心を閉ざし、自室にこもり、悩みごとがあっても打ち明けてくれなくなるでしょう。
相談を受けたら「聞き役」に徹する
相談を受けたときは、相手の気持ちに寄り添いながら、余計な口をはさまず「聞き役」に徹することが大切です。
共感的に話を聞いていくだけで、話し手は『自分のことを分かってくれている』と実感し、その悩みについてより深い本音の気持ちを話し始めるでしょう。
そして、話し手が自分の気持ちを受け入れられるようになると、自らの力で解決策を見出していくようになります。
長い目でみると、そのような関わり方が、相手にとって最も役に立つサポートになるはずです。
深刻な話であれば特に、聞き手は『聞き役に徹する』と意識するようにしましょう。
そうすることで『ついうっかり余計なことを言ってしまった』ということを防ぐことができます。
⑩ 鏡のように反射する技術

「傾聴」の基本技術のひとつに「リフレクション(Refrection)」と呼ばれる技法があります。
会話がスムーズに進む技法「リフレクション」
「リフレクション」とは、相手の話の中で「最も気持ちが込められている言葉」を聞き手がくみ取り『あなたが言っているのは、こういうことですね』と相手の気持ちを明確にしながら、簡潔な言葉で伝え返していくという方法です。
リフレクションは「反射( refrection )」という意味で、聞き手が話し手と向き合う「鏡」のような役割をするということです。
話し手が「鏡」に映る自分をみて、自分自身を理解していくといったイメージになるでしょうか。
日常のコミュニケーションにおいて、かなり高度なスキルのひとつといえるでしょう。
「リフレクション」を使った会話の例
リフレクションを使った具体的なやりとりの例を挙げてみましょう。
友人同士の会話です。
<話し手>
『先週、友達と海外旅行に行ったんだけど、すっごく楽しかったんだよね~♪ まだ日本に帰りたくない! あと一ヶ月くらい、ここでのんびりしたい!って思ったよ』
<聞き手>
『日本に帰りたくなくなるくらい、楽しかったんだね~♪』
<話し手>
『そうそう! すごく楽しかったんだよ~♪ どしゃぶりの雨に降られたり、車が動かなくなったり、予想外のハプニングもいっぱいあってねー』
<聞き手>
『そうなんだ~、思わぬハプニングもいろいろあったんだね~』
このように、相手が伝えようとしていることが漠然としていたとしても、話の輪郭をとらえて、それを確かめるように言葉にして伝え返していくのです。
言葉は長すぎず、短すぎず、簡潔にまとめて伝え返すことが大切です。
そうすることで、テンポよく会話のキャッチボールを続けることができます。
このような聞き方を続けていくと、相手は『この人は自分のことをすごくよく分かってくれる、話していて楽しいなぁ』と感じるようになり、話がどんどん盛り上がっていきます。
ここで紹介した会話の例はなにげない日常会話ですが、このリフレクションという技法は、家庭や職場での深刻な悩みを聞く際にも役立ちます。
リフレクションを意識した会話を続けると、相手は自然に心を開くようになり、誰にも打ち明けていない本音の話をしてくれるようになります。
「リフレクション」を使うときのポイント
この技法を使うときのポイントは、重要なキーワードを伝え返すときに、その言葉を「おうむ返し(悪く言えば「棒読み」)で言うのではなく、そのキーワードや言い回しが相手の気持ちに合っているか「確かめるように」伝えていくということです。
話し手が伝えようとしている気持ちの核となる部分を感じ取って『あなたが言いたいことはこういうことでしょうか?』というように「尋ねるような」気持ちを含ませて丁寧に言葉を返していくのです。
聞き手が理解したことを相手に伝え返し、それが合っているかどうかを相手に「確かめてもらう」のです。
もし聞き手の思い違いや理解不足で伝え返した内容がズレていたとしても、大した問題ではありません。
聞き手の理解にズレや思い違いがあれば、相手は説明を付け加えて修正してくれます。
そうして聞き手は話し手の伝えたい内容をより正確に理解し、話し合いは深まっていきます。
豊かな人間関係のための技法
この技法は、プロのカウンセラーでも習得するのに時間がかかる高度な技術ですが、この「リフレクション」という技法を知っているだけでもコミュニケーションの力は向上するはずです。
最初は難しく感じるかもしれませんが、繰り返し使っているうちにコツをつかめるようになるでしょう。
家庭、職場、友人同士の会話の中で、ぜひこの技法を試してみてください。
人間関係がより深く、豊かなものに変わっていくことを実感できるはずです。
