09. 「できた」という経験を積み上げる

以前、ある企業でモチベーションについてのセミナーをしたときのことだ。

休憩時間に、参加者の男性が話しかけてきた。

「私の問題は、すべて中途半端で終わらせてしまうことなんです。いろいろ挑戦してみるのですが、最後までやりきったことがない。すぐ次のプロジェクトに手を出してしまう」

彼は「自分は中途半端な人間で、最後まで完遂させる根性がない」と自分を評価していた。

そんな自分を変える「魔法の一言」を私に求めていた。

これまでの自己評価をきれいに消して、自分を変えてくれる言葉を、彼は求めていたのだ。

「何かいいアドバイスがあれば、それで解決すると思いますか?」と、私は彼に質問した。

「パソコンの使い方を覚えるときはどうでしょう。たくさんいいアドバイスをもらえば、パソコンは使えるようになりますか?」

アドバイスだけでは、パソコンを使えるようにはならない。それは彼も認めた。

「自己評価を変えるには、自分を変えるしかないのです」と私は言った。

「人の脳は、真実を信じます。だから、自分はやりとげられる人物だと信じたいなら、実際に最後までやりとげなければならない。実績を積み重ねるしかないのです」

彼は私のアドバイスを受け入れ、熱心に実行した。

まず新しくノートを買い、最初のページのいちばん上に「私がやりとげたこと」と書いた。

そして毎日、小さな目標をつくり、それをきちんとやりとげて、ノートを埋めていった。

それまでの彼は、家の玄関前を掃除していても、電話が鳴ったら途中で放りだしていた。

しかし今は、電話がかかってきても、掃除を中途半端にせず、最後まできちんと終わらせる。

そして終わったら、ノートに記録する。

やりとげたことのリストが長くなるほど、彼の自信は大きくなり、自分は最後までやりとげる人物だという思いが強くなっていった。

証拠が欲しければ、彼にはノートがある。

口で「私は最後までやりとげることができる」と唱えるだけでは、ここまでの自信を手に入れることはできなかった。

一晩中、自分にむかって「あなたは最後までやれる人だ」と語りかけたところで、自分の右脳は本当のことを知っている。

いくら甘い言葉をささやいても、そのたびに「いいや、違うよ」と返してくる。

自分が自分についてどう思っているか、そんなことを心配するのはもうやめてしまおう。

何かが「できる」と思いたいなら、「できた」という実績を積み重ねるしかない。

まずは小さなことから実行する。

実績は「次もできる」ということを証明してくれる。