1976年のことだ。
アーノルド・シュワルツェネッガーがまだ無名だった頃、私は彼とランチを共にしたことがある。
レストランで彼を知っている人は誰もいなかった。
彼は自分の出演した映画の宣伝のために、この町を訪れていたのだ。
当時、私は新聞記者だった。
アーノルドと一日を過ごして取材をし、新聞の日曜版に彼の記事を書くのが仕事だった。
私も、彼がどんな人物なのか全く知らなかった。
彼と一緒にその日を過ごしたのは、それが仕事だったからだ。
全く気乗りしない気分で仕事に臨んだが、終わってみると、それは生涯忘れられない思い出となった。
アーノルドとの一日で最も印象に残っているのは、彼と一緒に昼食をとっていたときのことだ。
私はノートを広げ、食事をしながら記事のための質問をしていた。
私は何気なく彼に尋ねた。
「ボディビルを引退したわけですが、次は何をするつもりですか?」
彼は、何でもないことのように穏やかな声でこう言った。
「ハリウッドでナンバーワンの興行収入スターになるつもりです。」
” I’m going to be the number-one box-office star in all of Hollywood.”
彼の計画を聞いて、私は思わず吹き出しそうになった。
驚きを通り越して、滑稽にしか思えなかった。
彼の英語はオーストリア訛りがひどかったし、何よりあの筋骨隆々の怪物のような巨体だ。
ハリウッドのイメージからは程遠く、映画の観客に受け入れられるとは到底、思えなかった。
それに今回公開された映画は、興行的には散々だったのだ。
私は何とか冷静さを装って、彼に尋ねてみた。
「ハリウッドのトップスターになるには、どうすればいいのですか?」
彼はまた、穏やかな声でこう説明した。
「ボディビルと同じですよ。なりたい自分のビジョンを描き、それがすでに実現したかのように、そのイメージの中で生きるんです」
” It’s the same process I used in bodybuilding. What you do is create a vision of who you want to be, and then live into that picture as if it were already true.”
バカバカしいほど単純な答えだ。
単純すぎて何の意味もないと思った。
でも、私はそれをノートに書き留めた。
そして私はそれを忘れなかった。
その後、映画「ターミネーター」の興行収入が全米でトップになったことを、あるテレビ番組で聞いたときの驚きは忘れられない。
彼はあの時に話していたビジョンの通り「ハリウッドのトップスター」になったのだ。
私は、アーノルドの「ビジョンを描く」というアイデアを、モチベーションを高めるツールとして長年活用している。
企業の研修でも、受講生に詳しく説明してきた。
大切なポイントは、アーノルドが言うようにビジョンを「創造する」という点だ。
ビジョンは誰かから与えられるのを待ってはいけない。
自分で「創造する」のだ。自分で作り出さなければいけない。
「ビジョンのある人生」とは、「毎朝、目を覚ます理由がある人生」と言えるだろう。
ビジョンを持っていると、前向きな気持ちで生きられるようになる。
ビジョンを今すぐに作ろう。
一旦それを決めても、変えようと思えばいつでも変えられる。
だから深刻にならず、今すぐに考えてみよう。
ビジョンをもって生きることで、人生がより活力に満ちたものになるはずだ。