心に「火」を灯そう|はじめに

アメリカの偉大な歌手、ボブ・ディランが有名になる前のことだ。
彼は自著の中で、尊敬する歌手ジョーン・バエズに出会う前の気持ちをこう書いている。

彼女に会うのが怖かった。
彼女に会いたくなかったが、いずれ会うことはわかっていた。
僕は彼女の後ろを歩いていたけれど、同じ方向を向いていた。
彼女には「炎」があり、僕にも同じような「炎」があると感じていた。

彼らが持っている「炎」は、私たちもみな持っているはずだ。
それは、詩人や歌手、特別な人だけのものではない。

その「炎」とは何なのか、私たちは心の深いところでは知っている。

私たちは、理想の人生を生きることができる。
そのためには、自分の心に「火」を灯さなければならない

私の人生の転機は「炎」を自分で灯すことができると知ったときだった。

それを発見するのに50年以上もかかってしまった。

私はそれまでの50年の間、心に火がつくためには「外からの刺激」が必要だと思っていたのだ。

なぜ、私はそう思い込んでいたのか?

それは、私は「自分の経験」をもとに考えていたからだ。

人は誰でも、問題を自分自身という「箱の中」で解決しようとする。
自分の経験の中から、うまくいった方法を掘り起こし、そこから未来を描こうとするのだ。

しかしそれでは、未来の可能性をせばめてしまう。
どんなに最高の未来を描こうと思っても、せいぜい「過去の改良バージョン」しか思い浮かばないだろう。

私は子どもの頃から、臆病な人間だった。
そんな私が大人になって勇気が湧いてくる方法を「箱の中」から発見した。

それは「アルコールの力を借りる」という方法だった。

私は、アルコールがあれば理想の自分になれるということを、自らの経験から見つけたのだ。

しかし、このすばらしい発見は「偽物の勇気」だった。

たしかに最初は楽しかったが、すぐに耐えられない「悪夢」になった。
私はアルコール依存にふり回されるようになってしまったのだ。

経験した人ならわかるだろうが、そこには成長も充実感もまったくなかった。

最高の未来を実現したいなら、過去の経験をもとに未来を描いてはいけないのだ。

私は長い年月をかけて「自分で自分の心に火を灯すことができる」ということを発見した。

私はどうやって自分に火をつけたのか?

私は早起きして仕事をした。
運動をした。
仕事に、家事に、子育てに、趣味に。
自分にとって大切なことに没頭して打ち込んだのだ。

そして、そうすることで「楽しくなる」ということを発見したのだ。

劇作家のノエル・カワードはこう言っている。

仕事は遊びよりも楽しい

“Work is more fun than fun.”
ー Noel Coward

ただしそれは「やっている」ときの話だ。
「考えている」ときは楽しくない。

「行動を起こす」ことで自分に火をつけることができるのだ。

人間はやる気が起こったから行動するのではない。行動するからやる気が起こるのだ。

これは心理学や脳科学でも言われていることだ。

このシンプルな事実を知ることができれば、人間は自由になれる。

人生を良くする「秘密」はこれほどシンプルなのだ。

多くの人は、シンプルなことを複雑なものにしてしまう
複雑なものをシンプルに、それも驚くほどシンプルにすること、それが「創造性」だ

“Making the simple complicated is commonplace, making the complicated simple, awesomely simple, that’s creativity.”
ー Charles Mingus / legendary jazz musician