うつ病の「体の症状」「気分の症状」について

うつ病の症状はとても分かりにくいものです。初期のころはただ「なんとなく調子が悪い」くらいに考え、まさか自分がうつ病にかかっているとは思いもよりません。

たとえば、風邪ならばとても分かりやすいです。熱が出る、咳が出る、鼻水が出るなど、見てわかる症状が出るので風邪であることが分かります。うつ病の症状は「なかなか寝付けない」「体がだるい」「気分が落ち込んでいる」といったものなので病気のようには見えないのです。このようなことが、うつ病の人の通院率の低さ、治療開始の遅れといった問題と関係があるのかもしれません。

うつ病の「体の症状」

うつ病の症状は「体の症状」と「気分の症状」に分けられます。まずは体の症状について見てみましょう。

よくある体の症状

主な体の症状は次の4つです。

  1. 眠れない(不眠)
  2. 食欲がない(食欲不振)
  3. 体がだるい(疲労感)
  4. 体が痛い(主に頭痛)
体の症状
眠れない寝つきが悪い。夜中、早朝に目が覚め、そのあと眠れなくなる。逆に寝すぎてしまうことも。
食欲がない食べる気が起こらない。何を食べてもおいしくない。体重が減ることもある。
体がだるいそれほど活動していないのに、ひどく疲れる。体がなまりのように重い。
体の痛み頭、肩、背中、お腹などが痛い。

体の症状と気分の症状はどちらが先に出る?

体の症状と気分の症状のどちらが先に出るのでしょうか。

個人差はありますが、たいていは体の症状の方が先に出ます。最初は、寝つきが悪くなる、食欲が落ちる、朝がつらいといった症状が出て、しだいに気分の落ち込みやイライラなど、気分の不調が出てくるようになります。

また、気分の症状と体の症状のどちらが強く出るかも個人差があります。何らかの体の症状は必ず出ますが、気分の症状はあまり出ないという場合もあります。体の症状ばかりが目立つ場合は「仮面うつ病」と呼ばれる状態かもしれません。

【 参照:「仮面うつ病」とは?

不眠について

不眠には「寝つきが悪くなるもの」と「夜中や早朝に目が覚めてしまうもの」があります。

寝つきが悪くなる「入眠障害」

寝つくまでに一時間以上かかってしまう。

朝早くに目が覚めてしまう「早朝覚醒」

起床する予定の時間よりも2時間以上も早く目が覚めてしまう。
目が覚めてからは眠ることができない。

眠れなくなると、寝返りばかりうって暗い部屋の中で悶々と考えごとをしてしまいます。考えごとをしているとますます目が冴えてしまい「寝ないといけない」と焦る気持ちが強くなります。

朝起きても体も気分もすっきりしません。疲れが取れていないので仕事や家事に対して意欲や集中力がなくなります。作業をしてもすぐに疲れて横になりたくなります。

内科の検査では異常は見つからない

不眠の他にも、頭痛、胃の不快感、下痢、便秘など、人によりさまざまな症状が出ます。不調を感じて内科を受診しても検査では異常が見つかりません。「自律神経失調症」や「更年期障害」といったあいまいな診断名がつくこともあります。だましだまし薬を飲みながら、何年もあとになって「実はうつ病だった」と判明する場合もあります。

ひどい症状が出るようになってからだと治療の開始が遅くなってしまいます。最初の不調を感じたときにうつ病の可能性を考えることができれば早めに対処することができ、つらい症状を経験しなくて済むかもしれません。

症状の一覧(医学的な分類)

体の症状の医学的な分類を見てみましょう。大きく次の5つに分類されます。

  1. 感覚の症状
  2. 全身の症状
  3. 循環器系の症状(心拍、呼吸)
  4. 消化器系の症状(食欲、お腹の調子)
  5. 泌尿器系の症状(排尿、生理など)

どのような症状が強く出るかは個人差があります。

① 感覚の症状

頭痛、頭重
めまい、ふらつき、のぼせ、ほてり、しびれ感
肩コリ、首のコリ、背中の痛み、腰痛、関節痛
味覚障害、嗅覚障害

② 全身の症状

倦怠感、疲労感
体重の減少
睡眠障害

③ 循環器系の症状

胸部圧迫感、前胸部痛
動悸、息切れ、呼吸困難感

④ 消化器系の症状

口の渇き
吐き気、食欲不振
食道異物感、胃部不快感
下痢、便秘

⑤ 泌尿器系の症状

頻尿、残尿感、排尿痛
性欲減退
月経不順、無月経

ほぼすべての人に出る症状は?

体の症状はさまざまなものがありますが、その中で出やすいものとあまり出ないものがあります。次の4つはほぼすべての人に出る症状で「うつ病の基本症状」といえます。

① 眠れない(不眠)
② 食欲がない(食欲不振)
③ 体がだるい(疲労感)
④ 体が痛い(主に頭痛)

① 眠れない寝つきが悪い。夜中、早朝に目が覚め、そのあと眠れなくなる。逆に寝すぎてしまうことも。
② 食欲がない食べる気が起こらない。何を食べてもおいしくない。体重が減ることもある。
③ 体がだるいそれほど活動していないのに、ひどく疲れる。体がなまりのように重い。
④ 体の痛み頭、肩、背中、お腹などが痛い。

それでは、その他の症状はどれくらいの頻度で出るものなのでしょうか?

症状の出現率

症状の出現率(出やすさ)は、次のように報告されています(参考/更井啓介,医学書院,1990)。

【うつ病】体の症状の出現率

  1. 不眠、早朝覚醒(80~100%)
  2. 疲労感、だるさ(50~90%)
  3. 頭痛、頭重(50~90%)
  4. 食欲不振(50~90%)
  5. 性欲減退(60~80%)
  6. 下痢、便秘(40~80%)
  7. 口の渇き(40~80%)
  8. 体重減少(60~70%)
  9. 頻尿(70%)
  10. めまい(30~70%)
  11. 動悸(40~60%)
  12. 月経異常(40~60%)
  13. 腹痛(30~40%)
  14. 背中が痛い(30~40%)
  15. 胸が痛い(30~40%)
  16. 関節痛(30%)
  17. 耳鳴り(30%)
  18. ふるえ(10~30%)
  19. 発汗(20%)
  20. 発疹(5%)

前にもお話ししたように、不眠、疲労感、頭痛、食欲不振は50~90%と、高い出現率となっています。

うつ病の「気分の症状」

次に気分の症状について見ていきましょう。よくある気分の症状は次の3つです。

  1. 気分の落ち込み(憂うつ、自分を責める、自殺を考える)
  2. 思考力の低下(集中力がなくなる、決断ができない)
  3. 意欲の低下(興味、関心、喜びがなくなる)
気分の症状
気分の落ち込み憂うつな気分が一日中つづく。とくに朝方がひどい。ボーっとして過ごす。
自分を責める自分はダメな人間、価値のない人間と考えて、自分を責める。
自殺を考える絶望的な気持ちになる。どこか遠くへ行きたい、消えてしまいたいと考える。
集中力がなくなる以前のように家事や仕事ができなくなる。人の話が理解できなくなる。
決断ができない考えがまとまらず、ささいなことが決められない。
興味、関心、喜びがなくなる今まで好きだったことに興味が持てなくなる。何をしても楽しくない。
動きがゆっくりになる動きが不自然になる。口数がへり、声が小さくなる。

うつ病は精神的な苦痛をともなう

うつ病は精神的な苦痛をともないます。気分の落ち込み、憂うつな気分が続き、気持ちの切り替えができずとても苦しくなります。とても疲れやすいので生活や仕事に大きな支障が出ます。

仕事や人間関係、自分自身が嫌になり「何処か遠くへ行きたい…」「消えていなくなりたい…」「このまま目が覚めなければいいのに…」と考えるようになります。気分の落ち込み、憂うつな気分はとくに朝方に強く出る傾向があります。

幻聴や幻覚がでることも

心も体も疲れているので、何もやる気が起きず、何も楽しいと思えず、むなしい気持ちで過ごします。ネガティブな考えが止まらない、強い焦りが出て落ち着かない、ソワソワして歩き回る、独り言がふえる、さけぶ、頭をかきむしる、といった状態になることもあります。

「自分は価値のない人間」「生きていても意味がない」といった自己否定の考えと将来への絶望感に強くとらわれます。このような状態が長く続くと、妄想、幻聴、幻覚が現れることもあります。

極端な自己否定、将来への絶望 ⇒ 妄想、幻聴、幻覚が現れることも(妄想:現実的でない思い込み)

うつ病の人は何を考えている?

うつ病の人は死にたくなるほどのつらさを感じていますが、その気持ちを言葉にするのは簡単ではありません。「このつらさは誰にもわかってもらえない」との思いもあり、誰にも気持ちを打ち明けずにいるのです。周りの人には、本人のつらそうな様子を見ても、何を考えているかまでは想像がつかないものです。気持ちが暗く沈んでいるとき、うつ病の人はどのようなことを考えているのでしょうか?その例を少しあげてみましょう。

憂うつな気分のとき

  • 「泣きたい気持ちが収まらない・・・」
  • 「どうしようもないほど孤独だ・・・」
  • 「頭がからっぽになったみたいで、なにも感じない・・・」
  • 「胸になにかが詰まって苦しい・・・」
  • 「だるい、からだに力がはいらない・・・」
  • 「すべてを失った、人生真っ暗だ・・・」
  • 「なにもやる気がおこらない・・・」
  • 「生きていてもしかたない・・・」

夕方から夜になると、少し気分が楽になることはありますが、不安定な気分は続きます。

自分を責める気持ちが強いとき

  • 「自分は何もできないダメな人間だ・・・」
  • 「まったく役に立たない人間だ・・・」
  • 「すべてわたしのせいだ・・・」
  • 「もうとりかえしがつかない・・・」
  • 「何もかも失ってしまった・・・」
  • 「あのときもっとがんばっていれば・・・」

何か問題があるとすべて自分のせいだと思い込み、必要以上に自分を責めてしまいます。そのような考えはエスカレートし、自己嫌悪から絶望的な気持ちになり、自分の存在までも否定するようになります。

自己嫌悪、絶望感が強いとき

自己嫌悪、絶望感が強いときは「自分なんていない方がいい」と自分の存在を否定する考えが頭に浮かびます。

  • 「周りの人に迷惑ばかりかけているし、こんな私なんかいないほうがいい・・・」
  • 「なにもかも失ってしまったし、生きていても仕方ない・・・」

集中力の低下

仕事上でささいなミスを繰り返したり、仕事や家事の効率が落ちて思うように進まないのは「集中力が低下」しているためです。考えがまとまらず、体も思うように動かず、時間ばかりが過ぎてしまいます。

集中力、判断力、理解力の低下はうつ病の症状のひとつです。しかし本人は、仕事や家事が進まない自分を許すことができず「能力が足りない」「努力が足りない」「自分はダメだ」と考えて落ち込んでしまいます。

家族や同僚はいつもと様子が違うことを感じ、心配してやさしい言葉をかけますが、本人はできない自分を責めて、腹を立てたり悲しくなったりします。以前は普通にできていたことがうつ病になるとできなくなることがあります。それはうつ病の「症状のせい」であることを、本人と周りの人は理解することが大切です。

強い不安感とあせり

うつ病の症状の中心は「気分の落ち込み」ですが、強い不安感やあせりといった感情も同時にかかえる場合があります。そのようなつらい感情、感覚に耐えきれなくなり、急に大声で叫んでしまったり、泣きわめいたりしてしまうこともあります。

強い不安感 ⇒ 漠然とした不安、イライラする、理由もないのに涙が出る、部屋に閉じこもる

強いあせり ⇒ 落ち着かずじっとしていられない、大声で叫びたくなる、泣きたくなる、疲れてヘトヘトになる

死んでしまいたい、消えてしまいたい

うつ病の人は自分を責める気持ちと絶望感にとらわれ、自分の存在自体を否定するようになります。そして「死んでしまいたい」「消えてしまいたい」と考えるようになります。そのような思いが強くなると、何を見ても自殺に結び付けて考えるようになります。

  • 「ベランダから飛び降りたら一瞬で死ねるな・・・」
  • 「柱にロープをかけることができそうだ・・・」
  • 「たまった薬を一度に飲めば死ねるかな・・・」
  • 「刃物でリストカットすれば出血多量で死ねるかも・・・」
  • 「ガス栓をひねれば、中毒で死ねるかな・・・」

衝動的に実行してしまうこともあるので、周りの人は細心の注意をはらう必要があります。思考力、判断力が低下しているため「死ぬしかない」という考えにとらわれると、その考えから抜け出せなくなることがあります。それが極端な考えだとは冷静に判断できなくなるのです。

「死ぬしかない」といった極端な思考もうつ病の「症状」のひとつです。自分の極端な思考に気づいて受診にいたる人もいますが、自分の考え方がおかしいとは思えず一人で鬱々と悩んでいる人も少なくありません。

うつ病ではない可能性も

これまで見てきたような症状が出ていても、うつ病の診断基準を満たしていなければ「抑うつ状態」などのように診断されます。また別の症状が出ている場合は、別の病名がつきます。うつ病に似た症状が出るものとしては、パニック障害、強迫性障害、双極性障害、適応障害などがあります。

また、うつ病に加えて別の診断がつく場合もあります。たとえば、強迫性障害とうつ病は同時に診断されることがよくあります。

うつ症状はなく、不安感がある場合

うつ症状がなく不安感だけがある場合は「不安障害」と診断されます。

不安障害の下位には診断名がさらに細かく分類されています。

  • 社交不安障害:人と話すことが怖いと感じる
  • パニック障害:死の恐怖と不安からパニック発作を起こす
  • 全般性不安障害:生活全体に強い不安感があり引きこもってしまう
  • 強迫性障害:身の回りの様々なことが過剰に気になり、強くこだわってしまう

これらはすべて「不安障害」に分類されます。このような不安障害が先にあって、それから生じるストレスによってうつ病を発症する場合もあります。不安障害をもつ人の半数以上はうつ病かそれに近い状態にあるといわれています。

気分の上がり下がりが激しい場合

うつ病は気分の落ち込み、焦り、無気力などの症状によって気分の”低い”状態が続きます。

それとは逆に、気分が高ぶる、気分が良くなり高揚する(いわゆるハイテンション)という状態が一時的にでもあれば「双極性障害(躁うつ病)」と診断される可能性があります。

双極性障害を発症すると・・・

・多弁になる
・眠らなくなる
・妙に活動的になる(買い物依存、ギャンブル依存、無茶な投資など)
・人間関係のトラブルが増える
・仕事を急に辞める、など

双極性障害を発症するとこのような行動が増えます。人間関係のトラブル、金銭トラブルが起こりやすくなるので、家族や周りの人はよく注意をして見守る必要があります。