64. 危機感を自分自身でつくりだす

アンソニー・バージェスは、40歳のとき脳腫瘍で余命1年未満と宣告された。

当時、バージェスは破産状態で、妻のリンに残せるものは何もなかった。

彼は、それまで文章で稼いだことはなかったが、自分には作家の才能があると思っていた。そこで、妻に印税という遺産を残すために、タイプライターにむかって文章を打ち始めた。

出版される見こみがあったわけではない。ただ、彼には、それ以外に妻にお金を残す方法が思いつかなかったのだ。

「あれは1960年の1月だった」とバージェスは言う。

「医者の話によると、私に残された人生は、この冬と春と夏だけ。秋の落ち葉とともに、私もこの世を去ることになる」

残された数ヵ月を使って、バージェスは精力的に執筆し、その年のうちに、5作と半分の小説を完成させた。これだけでサリンジャーのほぼ2倍の作品を残したことになる。

しかも、バージェスは死ななかった。

いつの間にか、腫瘍はすっかり消えてしまった。

彼は、小説家として長く充実した人生をまっとうし、70冊以上もの作品を残した。特に有名なのは「時計じかけのオレンジ」だ。

余命1年未満と宣告されなければ、これらの作品を書くことはなかっただろう。

私たちは、余命1年未満と宣告される前のアンソニー・バージェスだ。偉大な才能を内に秘め、何か危機的な状況がその才能を引きだしてくれるのを待っている。

私が思うに、私の父親の世代の人たちが第二次世界大戦を懐かしく語るのは、当時が危機的な時代だったせいだ。戦争の間、彼らはぎりぎりの状況で生き抜き、だからこそ、自分の可能性を発揮することができた。

人間は危機的な状況になると最高の力を発揮する。

優秀なアスリートは、これをうまく利用している。

危機感を自分でつくりだし、精力的に自分の仕事に取り組むのだ。

「今日のトレイルブレイザーズとの試合についてどう思いますか?」

プロバスケットボール選手のコービー・ブライアントは、レポーターにこう質問されると、目を輝かせてこう答えた。

「きっと戦争のような試合になるでしょう。」

悲劇や危険に襲われるのを待つ必要はない。自分自身で危機感をつくりだし、バイタリティを呼び覚ますことができる。

アンソニー・バージェスの立場に自分自身が置かれたところを想像してみるといいだろう。

「もしあと1年しか生きられないとしたら、私は何をするだろう」