05. 本番よりもハードな経験をしておく

この原則を私に教えてくれたのは、幼なじみのレット・ニコルズだ。

私たち2人が所属していたリトルリーグはレベルが高く、敵のピッチャーの球が速すぎて苦労していた。

相手チームのピッチャーは、どう見ても年齢をごまかしているとしか思えないほど大柄で、試合になると、うなるような剛速球を投げてくる。

私たちは、打席に立つのが嫌だった。楽しくもなんともなかった。ただ恥をかきたくない一心だった。

そんなある日、レットがあるアイデアを思いついた。「速い球に慣れればいいんじゃないか?」と、レットは言った。「試合よりも速い球で毎日練習するんだ。」

「それが問題なんだよ」と私は言った。「あんな速い球が投げられるヤツなんてうちのチームにいないじゃないか。だからみんな試合で打てないんだ」

「たしかに野球のボールなら投げられない。でも、他のボールなら?」

「どういう意味?」

レットは、ポケットから小さなゴルフボールを取りだした。プラスチック製で穴が開いている。父親が裏庭でゴルフの練習をするときに使っているボールだ。

「バットを持って」とレットは言った。

レットはマウンドから1メートルほど打席に近い位置に立った。レットはゴルフボールを思いきり投げ、私は空振りした。

「ハハ!」とレットは叫んだ。「今の球はリーグ最速だ!この調子で練習をつづけよう」

それから私たちは、交互にゴルフボールの剛速球を打つ練習をした。

プラスチックの小さなボールは、笑ってしまうほど速かっただけではなく、リトルリーグのどのピッチャーよりも、シャープに変化した。

次の試合の日がやってきた。レットも私も、準備万端だった。

相手ピッチャーの投げる球は、まるでスローモーションのように見えた。そして、私はホームランを打った。生涯で唯一のホームランだ。

あのときレットに教わったことを、私はずっと忘れなかった。

あれ以来、何か難しいこと、怖いことをしなければならないというときは、事前にもっと難しいこと、もっと怖いことをするようにしている。事前につらい思いをしておけば、本番は楽しむことができる。

偉大なボクサーのモハメド・アリもそうしていた。

アリはいつも、実際の対戦相手よりも能力が高いボクサーをスパーリング・パートナーに選んだ。対戦相手より強いスパーリング・パートナーは見つからないかもしれないが、あるポイントで対戦相手より上の能力を持つボクサーを選んでいたのである。

アリはいつも万全の準備で試合に臨み、そして勝った。

実際の戦いの前に、もっと大きな戦いを自分で準備することはできる。事前の戦いに勝っておけば、本番には最高のモチベーションで挑むことができる。