35.「誰も私を助けない」と考える

昔の私は、自尊心の本当の力をまったく知らなかった。

それを理解できたのは、心理療法士のナサニエル・ブランデン博士と、彼の妻ディヴァーズの指導を受けたおかげだ。

夫妻はともに、作家と心理療法士だ。

私はブランデン夫妻のおかげで、自分という人間の仕組みを深く理解することができた。

あなたはもしかしたら、こう思っているかもしれない。「そのブランデンという人の言う自尊心って、ニューエイジ(自己意識運動)っぽい人たちがさかんに言っている自尊心と同じなんでしょう?」と。

そう決めつけるなら、その前に彼の著作を読んでもらいたい。

近ごろの教育の常識によれば、自尊心は他人から与えられるものということのようだ。

ペンシルベニア州のリトルリーグでは、試合のスコアをつけるのをやめるという話が出たそうだ。負けたチームの子どもは自尊心が傷ついてしまうという理由からだ。

しかし、これでは本当の自尊心は育てられない。

子どもを過度に繊細にしてしまい、内面の強さを身につけさせることはできない。

ほめられるだけで、何も達成することなく育ってきた子どもは、競争の激しいグローバル市場では、恐怖で身動きがとれなくなる。

ブランデン夫妻が教える自尊心は、そんな甘い概念ではない。

彼らの思想の原点は、小説「肩をすくめるアトラス」で知られる客観主義哲学者アイン・ランドとの共同作業によって形づくられた。知力に訴える厳しい概念なのだ。

ブランデンの教えの重要な点は、私が思うに次の2つに集約される。

1つは「一度も行ったことのない場所を去ることはできない」という教えだ。

昔の私は、自分の中の恐怖思いこみから逃げることができると思っていた。

しかし、どんなに逃げようとしても、結局は恐怖や思いこみがさらに深く根づいてしまうだけだった。

私が本当にしなければならなかったのは、恐怖のすべてを白日の下にさらし、正体を見破ることだった。

一度それに取り組めるようになると、まるで爆弾処理班のように、自分の恐怖を処理できるようになった。

自分の恐怖を認め、受け入れることそれが、私が「一度も行ったことのない場所」だった。

一度その場所に行って恐怖を体験すれば、今度はその場所を立ち去ることも選択できるようになるのだ。

2つ目は「誰もあなたを助けない」だ。

この言葉は、どこか恐ろしい響きがある。昔の私なら、どんなに待っても助けはこないという考え方を、受け入れることはできなかったかもしれない。まるで、世界から完全に見捨てられてしまったかのようではないか。

でも、「誰もあなたを助けない」という考えを受け入れるのは、実は怖いことでもなんでもない。むしろ大きなパワーが手に入る瞬間だ。

ブランデン夫妻は、自立することの大切さを教えてくれた。

誰かに頼るのをやめ、自分の行動に責任を持つようになると、もっと幸せで充実した人生が送れる。

誰も助けにこないのは、あなたに十分な力があるからだ。

あなたは誰の助けも必要ではない。

自分の問題は自分の力で解決できる。

あなたは、人生を生きるのに十分な能力を備えている。

あなたは成長できる。強くなれる。

自分の力で幸せを生みだすことができる。

逆説的だが、他人の助けをあてにせずに自立すると、すばらしい人間関係を築くことができるようになる。

それは相手に依存せず、恐怖にもとらわれない、本物の人間関係だ。

お互いに自立した人間だからこそ、愛し合うことができる。

ブランデン博士のグループセラピーで、ある参加者が「誰も助けにやってこない」という考え方に反論したことがある。

「でも、ブランデン博士」と、その参加者は言った。

「あなたはやってきてくれたじゃありませんか!」

「たしかにそうだ」と、ブランデン博士も認めた。「でも私は、誰も助けにやってこないということを教えるために来たのですよ」