うつ病の治療とストレス解消法


うつ病の治療

うつ病治療、先進国の取り組み
2010年、イギリスのブレア首相は、抗うつ薬に代わって「認知行動療法」を治療の中心に据えることを決定しました。
うつ病治療の第一選択が抗うつ薬ではなく心理療法になったことは、世界でも画期的な大転換でした。
イギリスでのうつ病の治療は、国の保健機関(NICE)が定めたガイドラインに沿って以下の手順で進められます。

①かかりつけ医は問診を行ない、うつ病が疑われた患者はうつ症状の程度を診断される。
②軽度のうつ病と診断された場合は、各地域にある国営の「心理療法センター」に紹介され、認知行動療法をはじめとした心理療法が行われる。
抗うつ薬は使用しない。
③重度のうつ病と診断された場合にはSSRIが処方される。
しかし、処方にあたっては、副作用などの危険性を強く警告し、必要最小限の量を処方する。

イギリスでは、認知行動療法の効果が詳細に検証されています。
注目されているのは「再発率」です。
2006年に国が行った研究では、治療によって症状が良くなった患者のうち、抗うつ薬のみで治療した人は一年後に44%再発したのに対し、抗うつ薬に認知行動療法を組み合わせると一年後の再発率は27%まで下がったのです。

この研究を行ったうつ病治療の権威であるデイビッド・クラーク博士は次のように述べています。
「薬物療法は長期間の効用に難点があります。
抗うつ薬のみで回復した人の半数ちかくは、抗うつ薬を飲まなくなると、うつ病が再発してしまいます。
心理療法が優れている点は、患者が自分自身の抱える問題を認識することができるので、将来再びうつ病になりそうな問題が起きた時にうまく対処でき、予防効果が長続きすることです。」



薬物療法
(「薬物療法」については「うつ病の薬物療法」をご覧ください。)



心理療法の目的
うつ病の症状は薬である程度は抑えられますが、病気の原因になっている心理的な問題を解決しなければ再発を繰り返すことになります。
再発を防ぐために用いられるのが認知行動療法などの心理療法です。
うつ病の心理療法は、急性期を過ぎて症状がある程度落ち着き、自分自身を少し余裕を持てる見れるになってから行うのが一般的です。
どのようなストレスがきっかけでうつ病になったのか、生活習慣の何が問題だったのか、さらには自分の性格や考え方について、自分自身を見つめ直し、自分で解決できるように援助するのが心理療法の目的です。



「認知行動療法」とは
物事の見方、考え方のことを「認知」といいます。
認知行動療法は、うつ病の人にみられる認知のかたよりを修正し、気分や行動に反映させて症状の改善をはかる治療法です。
わたしたちの感情や気分は「認知のしかた(物事の捉え方)」に大きく影響されます。
状況を何でも悪い方にばかり考えたり、極端な個人的な思い込みにとらわれたりすると、現実を現実のまま見ることができなくなり、適切なかかわり方ができなくなります。
気分も沈んでしまいます。
このような認知のしかた、認知のかたよりは、抑うつ気分の強いときに、より極端になりやすくなります。
それを柔軟な考え方に切り替え、広い視野で現実を見られるようになれば、次第に抑うつ気分も軽減してきます。

失敗するたびに「自分は能力がない」と考えるなど、認知のかたよりは、いわば「考え方のクセ」のようなものです。
普段の生活のなかで、自分自身の考え方のクセに気づき、状況を別の視点から見直すことで、より現実的で柔軟な考え方に修正していくことができます。
認知行動療法はうつ病の改善だけでなく、再発防止にも効果が認められています。

認知行動療法では、次の3つのことを目指します。

①認知のかたより(考え方のクセ)を認識し、それが本当に正しいのか検証できるようになる
②気分が落ち込まない考え方、より柔軟性のある考え方を身につける
③合理的な考え方をもとに行動し、問題を解決する技術を身につける

(認知行動療法の詳細には「認知行動療法のメリットとデメリット」をご覧ください。)



行動活性化
うつ状態のときは何もやる気が起きず活動量は低下するものですが、急性期を過ぎて少し元気が回復してくれば、少しでも興味があることや楽しめること、何でもいいので行動してみると良いでしょう。
脳科学の研究によると、活動量を増やすと気分が高まり、うつ病の回復が促されることがわかっています。
何もしないでいると余計に何もする気が起こらなくなり、考え事をする時間が増えて気分が落ち込みやすくなります。
動くことに抵抗があっても、最初の一歩を踏み出せば「やる気」のスイッチが入るものです。
(「脳科学から見たやる気の出し方」をご参照ください。)

掃除や勉強など、最初は嫌々であっても、いざ始めてみると意外と軽快に、集中して続けることができます。
「やる気が起きないときこそ行動してみよう」と心がけるとよいでしょう。
このように、意識的に活動量を増やしていくやり方を「行動活性化」といいます。
行動活性化は元々は認知行動療法の技法のひとつで、喜びや達成感が得られる行動を少しずつ増やしながら、意欲を高め、うつ状態から抜け出すことを目的とした技法です。
最初は無理をせず、できることに少しずつ取り組んでいきます。
行動することによる達成感や気づきをノートに記録するとより効果的です。



対人関係療法
対人関係療法は、人間関係の中で生じるストレスを和らげることで、精神的な症状の改善をはかろうとする精神療法です。
人間関係のなかでも、次の4つのケースは強いストレスを生じやすく、うつ病の要因になります。

①大切な人を失う経験(喪失体験)
②家族や職場などの重要な人間関係での気持ちのズレ
③家庭や職場での立場・環境の変化(役割の変化)
④人づきあいが苦手(人間関係の欠如、孤立)

対人関係療法では、こうした人間関係の問題点を整理し、その解決をはかることで、ストレスの軽減をはかります。

対人関係療法の4つのステップ
【第1ステップ】
現在の人間関係をチェックする 家庭や職場で、どんな会話をしているか振り返り、現在の人間関係に改善すべき問題点がないか検証します。
【第2ステップ】
人間関係の変化をチェックする 失業や家族との死別などの「喪失体験」や昇進や転勤などの「役割の変化」によって、人間関係がストレスになっていないか確認します。
【第3ステップ】
会話の内容をチェックする 家族や同僚、上司とうまく意思の疎通がはかれているか振り返ります。
【第4ステップ】
問題点について話し合い、解決方法を考える 人間関係の問題点が見つかったら、相手ときちんと話し合う機会をもち、解決方法について考えます。



栄養療法
抗うつ薬などの薬物療法は対症療法であるのに対し、栄養療法と心理療法は根本治療といわれます。急性期の薬物療法は有効に働きますが、回復期は栄養療法や心理療法などの自然治癒力を生かした治療法が再発予防の観点からも重要です。(詳細は「こころと身体の栄養療法」をご参照ください。)



運動療法
(詳細は「運動療法」をご参照ください。)



電気けいれん療法(ECT)
薬物療法を続けても十分な効果がなかったり、再発を何度も繰り返している難治性のうつ病、双極性障害の治療法として、脳に電気刺激を与える「電気けいれん療法」が有効な場合があります。
また、高齢者などで薬の副作用が出やすい場合、妄想にとらわれている場合にも行われることがあります。
短期間の入院で高い効果を上げることができるので、自殺の危険性がある場合など早く治療したいときに選択されます。
以前は、けいれんを起こす危険があることから敬遠されていましたが、全身麻酔と筋弛緩剤を用いる修正型ECTが開発され安全性が高まりました。
治療では心電図、血圧計、酸素マスクなどを装着し、麻酔科医による全身管理のもとで行われます。
全身麻酔後、患者の両こめかみに3秒ほど電流を流します。
これを1日1回、1~3日おきに数回から10回程度行います。
副作用として、頭痛と一時的な記憶の混乱(記憶障害)がみられることがありますが、時間がたてば記憶は回復します。
症状の重い急性期にはよく効く反面、再発するリスクは高いといわれています。



「休み方」がわからない
うつ病と診断されると、医師から「しばらくの間、ゆっくり休んでください」といわれます。
しかし、うつ病の人は具体的にどのように休めばいいかわからず、「休み方がわからない」ことが悩みの種になってしまうことがあります。
元気だった頃は「休む」とは趣味など「自分の好きなことをする」ことでした。
この考え方が身についているため、うつ病になっていざ「休もう」とするとき、「なにかしなければいけない」と考えてしまいます。
それが「休む」ということだと思ってしまうのです。
うつ病になると何もできなくなるのですが、「なにかしなければいけない」と焦る気持ちが強くなり、実際は何もしていないのに疲れてしまうという状態におちいります。
うつ病になって「休む」というのは「何もしない」「何も考えない」ということです。
もしくは、自分にとって「心地よいことだけをする」ということです。

・ソファに楽にすわり、ゆっくりお茶を飲む
・雑誌、絵本をながめる(読まなくていい)
・ゆったりとした音楽を流して、ボーッとする
・音なしのテレビをながめる
・ソファか布団に横になってくつろぎ、眠くなれば寝る。

動けるときは動いて、気の向いたことをいろいろと試してみてください。
気の向いたことだけをしていくと、自分に合った「休み方」がわかってきます。
次の「ストレス解消法」の例も参考にしてください。



ストレス解消法
日常生活の中での「ストレス解消法」の例を挙げてみましょう。
のんびり軽いものから活動的なものまで、気になったものがあれば試してみて、お気に入りを探してください。
無理をしないで、「気持ちが落ち着く」「気晴らしになる」「楽しい」と思えることだけを少しずつやってみるとよいでしょう。


<軽めのもの>
一日を何もせず過ごす
お風呂にゆっくり入る
お風呂にアロマやキャンドルを入れてみる
DVD(映画)鑑賞(内容は理解する必要はありません)
音楽を聴く
何もせずゴロゴロする
海外ドラマを観る
寝転がって本や雑誌を読む(眺める)
暖かい布団に包まって寝る
温かいココアを飲む
美味しいコーヒー、紅茶を淹れる
ペットと遊ぶ
ペットと一緒に寝る
美味しいレストランの情報を調べる
美味しいコーヒー屋さんの情報を調べる
旅行の計画を立てる(実際には行かない)
行ってみたい場所について調べる
お笑いを見て声を出して笑う
伸びをしたり、ストレッチをする
楽しいことを妄想する


<活動的なもの>
散歩、ウォーキング
家族と楽しくおしゃべり
友達と電話でおしゃべり
マッサージに行く
本屋で立ち読み
ランニングをする
趣味や好きなことをやる
美味しい食事を食べる
一人カラオケに行く
道端の植物観察
人間ウォッチング
美味しいものを食べ歩き
美術館、博物館めぐり
部屋の掃除、水回りの掃除
気ままにドライブをする
料理やお菓子を作る
好きなスポーツをする
カフェめぐりをしておいしいケーキを食べる
ウィンドウ・ショッピング(洋服や雑貨、家具など好きなもの)
自宅でエアロビクス、ダンスをする
好きな場所をうろうろする
ペットショップに行く
きれいな石、かわいい雑貨を集める
観劇をする ジムに通う
水泳をする
今まで行ったことのない場所に行ってみる
山や海に行く、自然に触れる
習い事について調べてみる



治療開始の直後は調子を崩すことがある
精神科を受診し治療を開始した直後に、症状がさらに悪化する場合があります。
これまでなんとか気を張って頑張っていましたが、治療が始まった途端に緊張の糸が切れてしまうためです。
身体症状、精神症状の両方が悪化します。
また、薬物療法が始まると、薬の副作用でさらに調子を崩す場合もあります。
治療を始めるとすぐに良くなると思っていた家族はがっかりし、本人も絶望的な気持ちになります。
つらさのあまり自殺を実行してしまう人もいるので、家族や周りの人は注意が必要です。
うつ症状の続く期間は人によって異なります。
数ヶ月でよくなる人もいれば、波を繰り返しながら何年も続く人もいます。
焦らずに治療を続けることが大切です。
気分の落ち込みが少し軽くなったと感じるようになれば、認知行動療法などの心理療法を始めてみるとよいでしょう。


治療開始時のポイント
・緊張の糸が切れて、一気に調子を崩す場合があります
・認知行動療法など心理療法は状態が少し落ち着いた頃に始める
・薬の副作用に注意する(必ず主治医に相談する)
・衝動的に自殺に走らないように、家族は見守る



うつ病の回復までの期間
うつ病の人が完治、または社会復帰するまでに要する治療期間は、個人差が大きく一概にはいえません。
うつ病の初期の段階で薬物療法や心理療法を受けて、1~3ヶ月間の休養をした後、仕事に復帰する人もいますし、何年も治療を続けても完治に至らない人もいます。
(長期の治療にもかかわらず改善しない場合は、うつ病ではなく双極性障害の可能性があります。)
入院をして長期療養が必要となれば、病院での療養は3ヶ月をひとつの目安にして治療が行われます。
初めの3ヶ月で症状が改善しなければ、さらに3ヶ月間の療養期間をとって治療を続けます。
自殺企図などの危険な状態が解消されても、うつ病のさまざまな症状は時間をかけて少しずつ改善していくため、完治までの治療期間は長くなります。
おおよその目安としては、1年間の薬物療法と心理療法を続けると再発率が低くなります。




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