うつ病の薬物療法


薬物療法の基礎知識

精神科医選びの5カ条
防衛医科大学教授、野村総一郎氏の「精神科医選びの5カ条」を紹介します。
野村氏によれば、次の5項目のうちひとつでも該当すれば、その医師の治療法は問題があるとのことです。
①薬の処方や副作用について説明しない
②初診から3種類以上の抗うつ薬を出す
③薬がどんどん増える
④薬や副作用について質問すると不機嫌になる
⑤薬以外の対応法・治療法を知らないようだ

①薬の処方や副作用について説明しない
「薬の説明は基本中の基本。副作用として出る可能性のあるものを全部説明することは無理でも、重要なポイントはしっかり説明することは絶対必要。」(野村氏)

②初診から3種類以上の抗うつ薬を出す
「多種類の抗うつ薬を組み合わせて処方する「多剤併用」に医学的根拠はありません。薬は基本的に一種類であるべき」(野村氏)

③薬がどんどん増える
「“治らないから出しておくか”と薬をどんどん増やす医師が多い。薬を増やせば有効だというデータはありません。医師が薬をどんどん増やしているなら、それは根拠のない治療をやっていることになります。」(野村氏)

④薬や副作用について質問すると不機嫌になる
「患者からの薬の副作用の話に怒って反応すると、治療のチャンスを逃してしまいます。患者にとっては、医師に言いたいことを言いづらくなる上に治療の質が低下してしまいます。」(野村氏)

⑤薬以外の対応法・治療法を知らないようだ
「何か言うと、“薬を増やしておきましょうね”としか言わない医師は、治療観が間違っているんじゃないかと思います。精神療法(心理療法)などもいろいろあります。薬はケアのひとつの手段に過ぎません。」(野村氏)



向精神病薬の分類
精神病に使用される薬は、総称して「向(こう)精神病薬」とよばれます。
うつ病の治療に用いられる向精神病薬は、働きにより大きく5つに分類されます。
①抗うつ薬
②抗不安薬
③気分安定薬
④抗精神病薬
⑤睡眠薬

①抗うつ薬
うつ病の薬物療法において、もっともよく使われる薬。抗うつ薬はさらに5つのタイプにわかれます。(詳細は後述します。)

②抗不安薬
抗不安薬は、強い不安感がある場合に用いられ、不安を和らげ、睡眠を促す作用があります。
主に「ベンゾジアゼピン系」の薬で、種類により「短時間型」「中間型」「長時間型」があり、症状により使い分けられます。
治療初期に用いられ、依存性が高いため長期の使用はせず、できるだけ早期に減量・中止します。
薬の種類によっては離脱症状が出やすく、問題となる場合があります。

③気分安定薬
抑うつ状態の改善、気分変動の抑制などのために使用されます。
双極性障害では炭酸リチウム(リーマス)がよく用いられます。

④抗精神病薬
不安や緊張、抑うつ病感などのうつ症状が強い場合に、抗精神病薬が抗うつ薬とともに併用されます。
強い効果がありますが、副作用も出やすいため注意が必要です。

⑤睡眠薬
気分が落ち込んでなかなか寝つけないときや、夜中に何度も目が覚めてしまう場合に処方されます。
主に、抗不安薬と同じベンゾジアゼピン系の薬が用いられます。



抗うつ薬の種類と働き
抗うつ薬は働きによって5つに分類されます。
①SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
②SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
③三環系抗うつ薬
④四環系抗うつ薬
⑤NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)

①SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
現在、最も使用されているうつ病の薬物療法の第一選択薬です。
セロトニンの再取り込みだけを阻害し、アセチルコリンなど、ほかの神経伝達物質には作用しないと考えられています。
そのため、三環系や四環系の抗うつ薬に比べて副作用が少ないですが、危険な副作用(アクチベーション・シンドローム)が生じる可能性があるので注意が必要です。
効果が出るまでに2~4週間かかるため、その間は即効性のある抗不安薬を併用する場合があります。
〔主な副作用〕
食欲不振、吐き気、頭痛、便秘、性欲低下、体重増加、アクチベーション・シンドロームなど

②SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
SSRIに続いて登場した抗うつ薬で、セロトニンに加え、ノルアドレナリンの再取り込みも阻害することで、神経伝達物質の働きを高め、意欲を向上させるといわれています。
SSRIと同様、第一選択薬として使用されます。
〔主な副作用〕
吐き気、便秘、頭痛、頻脈、血圧上昇、性欲低下、排尿困難、アクチベーション・シンドロームなど

③三環系抗うつ薬
セロトニンとノルアドレナリンの両方の再取り込みを阻害します。
副作用が強いため、使用されることが少なくなりました。
SSRI、SNRIが効かない場合に使用されます。
〔主な副作用〕
口渇、便秘、排尿困難、複視、立ちくらみ、不整脈、眠気、倦怠感など

④四環系抗うつ薬
三環系の薬の副作用を克服する目的で開発された薬です。
三環系やSSRI、SNRIよりも即効性があるとされています。
〔主な副作用〕
口渇、便秘、排尿困難、複視、立ちくらみ、不整脈、眠気、倦怠感など

⑤NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)
「ナッサ」と読みます。
2009年に承認された新しい薬です。
これまでの抗うつ薬のようにセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害するのではなく、別の作用によって神経伝達物質の働きを高めます。
即効性があり、ほかの抗うつ薬よりも副作用が少ないといわれています。
〔主な副作用〕 眠気、口渇、便秘、倦怠感など



「多剤併用」に注意!
防衛医科大教授の野村総一郎氏によれば、「多くの抗うつ薬を同時に投与して症状が改善するという治験データはない」といいます。
それにもかかわらず、医療現場では多くの精神科医が多種類の抗うつ薬、抗不安薬に依存しているのが現状です。
野村氏は「うつ病の症状が良くならなければ薬の量も種類も増やす『多剤療法』は日本の精神科医の独特の考え方である」といいます。

2009年8月の厚生労働省の資料によれば、抗うつ薬を2種類以上処方されている患者の割合は、日本が35%と飛びぬけて高いことが指摘されました。
多剤併用率(2種類以上の薬剤を投与されている患者の割合)
日本・・・・・・・・・35%
オーストラリア・・・・・5%
イタリア・・・・・・・12%
カナダ・・・・・・・・25%
スペイン・・・・・・・・5%
中国・・・・・・・・・12%
韓国・・・・・・・・・25%
シンガポール・・・・・・3%
台湾・・・・・・・・・・4%
(厚生労働省 2009年 「第22回 今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」資料より)



うつ病に効く漢方薬
日本は世界で唯一、漢方薬の処方が保険適用されます。
経済的な負担を抑えて漢方薬の使用が可能です。
また、漢方薬は効果は穏やかですが、西洋薬と比べるとはるかに副作用が少ないため、積極的に処方する医師も少なからずいます。
うつ病、双極性障害では、適応となる漢方薬が異なります。
病名や症状だけではなく、体質や性格も考慮に入れて「合う」漢方薬を探していく必要があります。
服用においては、必ず専門医の指示にしたがってください。

①補中益気湯(ほちゅうえっきとう)(41)
気力・体力が衰え、食欲が低下し、寝汗が多く、身体に力が入らない人に使われます。
うつ病のさまざまな症状、虚弱体質にも使われます。抗うつ薬と比べると作用はおとるものの、躁転などの副作用が少ないといわれます。

②香蘇散(こうそさん)(70)
気分が落ち込んだときに使われます。
一時的な落ち込みというより、もともと内向的で人見知りするようなタイプの人に適しています。
胃薬としても使われることがあります。
抗うつ薬の副作用(吐き気や食欲不振)を緩和する作用もあるため、併用薬として使用されます。

③半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)(16)
のどに何か詰まった感じを訴える人に対して使われます。
気分の症状が少なく、身体症状が主な人にも用いられます。
胃に優しく、吐き気を抑える作用もあるため、「香蘇散」と同様に抗うつ薬と併用される場合があります。
強い不安がある場合は、「香蘇散」よりも「半夏厚朴湯」の方が適しています。

④加味帰脾湯(かみきひとう)(137)
「補中益気湯」と似た生薬で作られており、対象となる人もほぼ同じです。
ただ、精神作用のある生薬が若干加わっているため、さらに不安、気力・体力の低下、不眠などの強い人に適しています。
「補中益気湯」と比べると、体力回復効果はおとりますが、そのぶん高齢者や女性に対して使われます。





/ うつ病の原因と診断基準 / うつ病の精神症状 / うつ病の身体症状 / 女性特有のうつ病 / 他の病気で現れるうつ症状 / うつ病の治療とストレス解消法 / うつ病の人の気持ちを理解しよう / うつ病の人への家族の接し方 / うつ病の人への支援方法 / うつ病の薬物療法