うつ病の原因と診断基準


うつ病の原因と診断基準


多くの人は治療を受けていない
うつ病などの精神疾患で苦しむ人は世界中で増加の傾向にあります。
WHO(世界保健機構)の報告によると、精神疾患にかかっている人は世界で3億5000万人を超えると推計されています(2012年)。
世界では年間100万人を超える自殺者がいるとされ、その半数はうつ病にかかっていたとみられています。
女性のおよそ5人に1人が産後うつ病に、人口全体のおよそ5%がうつ病を発症するともいわれています。

うつ病はそれだけ多くの人がかかってしまうのですが、適切な治療を受けている人は全体の半数にも満たないと報告されています。
その理由は、自分では病気であることを自覚しにくい、または自分がうつ病であることを認めたくない、ということのようです。
心も身体も疲れ果てているのに、「これは気持ちの問題だ」と考えて受診をしぶってしまうのです。



うつ病は命にかかわる病気
うつ病の増加傾向は日本においてもみられます。
厚生労働省の調査によると、2008年にうつ病の患者数は100万人を突破しました。
内閣府の『障害者白書』によると、精神障害で苦しむ人は人口の約2%にあたる250万人いるとされています。
その中で、うつ病の患者数は約42%の104万人に達しています。

また、うつ病は7人のうち1人が生涯のうちに1回はかかるという報告もあります。
日本では年間の自殺者が3万人を超えますが、その半数以上の人が自殺前にはうつ状態にあるといわれています。
うつ病は仕事や生活に支障が出るだけでなく、命にかかわる病気なのです。



発症の原因
以前は、個人の性格がうつ病の主な要因であると考えられていました。
几帳面でまじめ、こだわりが強い、我慢強い、頑張りすぎてしまう。
そういった性格の人は、ストレスをため込みやすく、確かにうつ病になりやすいと考えられます。
しかし、近年の研究によれば、うつ病は強いストレスにさらされれば誰でもかかる可能性のある病気であることがわかってきました。

脳科学の進歩によって人間の気分や感情の変化は脳神経の働きと関係していることがわかってきました。
脳神経細胞の間では、セロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンといった「神経伝達物質」を介して情報が伝達されます。

強いストレスが持続的にかかることで脳がダメージを受け、脳機能の低下や抑うつ症状を引き起こすことがわかっていますが、そのメカニズムはまだ十分には解明されていません。

様々な仮説が示されていますが、現在は「モノアミン仮説」が有力視されています。
「モノアミン仮説」とは、神経伝達物質のなかでも、気分や意欲に関係するセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなど(総称「モノアミン」)の機能が低下し、脳内の情報伝達に支障をきたしているのではないか、という仮説です。

また、遺伝子解析の進歩によって、うつ病の発症に関係しているとみられる遺伝子も報告されています。
しかしながら、これらの遺伝子の関与については、先のモノアミン仮説と同様、現時点では推測の域を出ていません。

うつ病の原因を考えるとき、何か特定の「ひとつの要因」だけで説明しようとするのは無理があるでしょう。
実際には、ストレスによる脳のダメージ、遺伝子による影響、この二つはうつ病の発症に深く関わっていると考えられます。

現在の医学モデルでは、うつ病は、
① ストレス環境
② 個人の性格や考え方
③ 生まれもった気質(遺伝)
の3つが相互に関連して発症するものと考えられています。



発症のきっかけ
強いストレスが長期間かかり続けることで、脳にダメージが蓄積されます。
たとえば、次のような経験、出来事は発症のきっかけとなる場合があります。

【 喪失体験 】
家族の死別、離婚、失恋、子どもの独立、失業、災害、震災など

【 対人関係 】
パワハラ、セクハラ、仕事のトラブル、夫婦の不和、近隣トラブルなど
「仕事のノルマが達成できず、厳しい上司に嫌味を言われたり、繰り返し怒られた」
「子育て、夫婦の問題が解決しない」

【 環境の変化 】
引っ越し、結婚、出産、進学、就職、転職、昇進、長時間労働、仕事内容の変化など
「単身赴任し、環境の大きな変化がストレスに。仕事も生活もうまくいかなくなった」

【 体調の変化 】
妊娠、出産、がん、糖尿病、脳卒中、けが、女性ホルモンの変化など
「出産でホルモンのバランスが乱れ、育児で寝不足が続いた」



発症しやすい性別・年代
うつ病は子どもから高齢者まで誰でも発症する可能性のある病気ですが、働き盛りの年代や高齢者はとくに注意が必要です。

働き盛りの年代で発症率が高いのは、長時間労働や転勤、リストラといった労働環境が大きなストレスになりやすいためです。
また働き盛りの年代の人は、経済的に家族を支えるだけでなく、子どもの教育や親の介護など一家の大黒柱としての責任も感じやすいでしょう。
「自分が頑張って家族を支えなければ」と強く思っている人は、ストレスを抱え込む傾向にあります。
また、頑張り過ぎてしまうことで、うつ病を発症していることに本人も周りの人も気づかない場合もあります。

高齢世代になると定年退職などで社会との交流が少なくなったり、配偶者や友人と死別したり、肉体の衰えを感じたりたりして、気分が落ち込むことが多くなります。
高齢者は気分の落ち込みや身体の不調があっても「年のせい」と考えて放置しがちです。
高齢者のいる家庭では、気分や体調の変化に家族が気づいてあげることが大切です。

性別では、男性より女性のほうが発症率が高いといわれています。
女性特有の生理や出産などがあり、ホルモンバランスの急激な変化が男性よりも起こりやすいためと考えられます。



「気分障害」とは?
うつ病は、DSM-Ⅳによる診断基準では「気分障害」に分類されます。
(「DSM-Ⅳ」=アメリカ精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル 第4版)

「気分障害」は大きく「うつ病性障害」と「双極性障害」の2つに分けられます。

A.「うつ病性障害」・・・症状がうつ状態のみ
B.「双極性障害」・・・症状がうつ状態と躁状態の両方

A、Bは、さらにそれぞれ3つに分類されます。

A.「うつ病性障害」
①「大うつ病性障害」
DSM-Ⅳの診断基準の5項目に該当する症状が2週間以上続いているとき、この診断になります。
うつ病性障害のなかで最も多く、一般に「うつ病」という場合はこのタイプを指します。
なお、大うつ病の「大」は「一般的な、典型的な」という意味合いです。

②「気分変調性障害」
うつ状態は比較的軽度で、症状がほとんど毎日、2年以上続いているとき、この診断になります。
軽いうつ症状が慢性化している状態。

③「小うつ病性障害」
大うつ病性障害の診断基準を満たさない、症状の軽いうつ病。軽症うつ病ともいう。
身体症状が現れることが多く、うつ病と自覚しにくいタイプ。


B.「双極性障害」
①「双極性1型障害」
②「双極性2型障害」
③「気分循環性障害」



うつ病の診断基準
以下の①~⑨の症状のうち、5つ以上が当てはまり(①②のどちらか一方は必須)それらの症状が2週間以上続いていて苦痛を感じている、あるいは生活に支障をきたしている場合に「うつ病」と診断されます。

①ほとんど毎日続く抑うつ気分
②何も楽しいと感じることができず、無気力で興味がわかない
③食欲が低下している
④よく眠れない
⑤イライラやあせりがある
⑥疲れやすく、気力が減退している
⑦自分を責めてばかりいる、無価値観がある
⑧集中力が低下し、考えることができない
⑨繰り返し死にたいと思う



「双極性障害」の可能性も
うつ病と診断されていても、次のような項目に当てはまる場合は、将来、双極性障害を発症する可能性があります。
①過眠ぎみ
②食べ過ぎる
③妄想や幻覚を経験する
④25歳以下でうつ病を発症
⑤うつ病を何度も繰り返す
⑥双極性障害の人が家族にいる

「うつ病」と診断されている人のなかに、かなり高い割合で「双極性障害」の人が混ざっている(誤診されている)のではないかといわれています。
上記の項目に当てはまる人は、医師に相談してください。





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