第5章 新しい生活を手に入れる


第5章 新しい生活を手に入れる


この章では、第3章で学んだことをふまえて、さらに具体的に行動を変えていくための方法について学んでいきます。


<行動を変えていくための心構え>

行動を変えていくための心構えを示します。
・新しい行動を「実験」ととらえて実行する。(実験なので「失敗」はない)
・実験することでどのような結果(気分)になるか興味を持つ。(不快な結果になっても落ち込まない)
・取り組みやすい行動を選ぶ。(途中で挫折しないために簡単な行動を選ぶ)
・実験に過剰な期待をしない。(良い結果ばかりではないし、変化には時間がかかるもの)
・恥ずかしがらずに行動する。(他の人がどう思うかは気にしないで行動する)
・「やればできる」ではうまくいかない。(実行するためにはきちんとしたステップが必要)



<ハルコさんの場合>

ハルコさんは32歳、独身。夜9時頃に仕事から家に帰ると、まずソファに座りテレビをつけます。空腹は感じますが、疲れて何も準備する気になれません。ハルコさんは、食生活が乱れていることに罪悪感を感じながらも、いつものように冷凍食品を温めて、テレビを見ながら食べます。テレビを見たいわけではありませんが、他に何もする気が起きないので、面白くもないのにだらだらと見続けます。いつの間にかソファで眠ってしまい、夜中に目を覚まして寝室に向かいます。 ハルコさんは、このような毎日の過ごし方は自分にとって良くないと気づいていました。この毎日の憂うつな気分から抜け出すためには今の生活パターンを変えていくしかないと、ハルコさんは思うようになりました。



<ハルコさんの変化の第一歩>

ハルコさんは、帰宅後の行動を変えることに決めました。

・だらだらテレビを見る → 一時間以上見ない。資格の勉強、家事をする。
・冷凍食品を食べる → 簡単なものでも食事を作る。友人を食事に誘う。
・テレビの前で寝る → 早めに寝室に行き、音楽をかけてストレッチをしてリラックスする。

ハルコさんは、翌日から3日間、新しい行動を試してみて気分の変化をモニタリングをしました。その結果、新しい行動によって憂うつな気分が少なくなることがわかりました。ハルコさんは夜の時間をもっと有意義に過ごそうと思うようになりました。



<変化することは簡単?>

あなたはハルコさんの例を読んで、どう思いましたか?「計画を立てて行動を変えればいいだけだ、簡単だ」と思いますか?確かに、計画を立てて実行し、変化を観察する、それだけです。しかし、どのように計画を立てて、どのように実行し、どのような気分の変化があったかを知ることは、必ずしも簡単ではありません。もし簡単にできるのであれば、あなたはすでに行動しているはずです。実際に行動を変えていくためには、ひとつひとつのステップを着実に上がっていく必要があります。以下にそのステップを示します。これらのステップに従って進んでいけば、ハルコさんのように行動と気分に変化を起こすことができます。

ステップ1:問題行動を特定する
ステップ2:新しい行動を選択する
ステップ3:新しい行動を試す
ステップ4:結果を評価する
ステップ5:役立つ行動を生活に取り入れる



<ステップ1:問題行動を特定する>

気分の落ち込みの原因となっている「問題行動」を特定します。 「問題行動」とは、次のような行動を指します。
・行動しない(布団にこもっている、テレビをぼーっと見る)
・何事も相手を優先して、自分は我慢する(言いたいことを言わない)
・頭の中で否定的な考えを繰り返す(反復思考、堂々巡り)
・常に誰かに愚痴や悪口を言っている
・仕事や雑用が忙しく、リラックスする時間が取れない



<課題 5-1> あなたの日常生活の中での問題行動を見つけましょう。これまでに記録した活動と気分のモニタリング表を振り返ってもよいでしょう。 問題行動を明確に特定することは、簡単ではありませんので、すぐに特定できなくても心配はありません。一週間ほど時間をかけて、じっくりとあなたの行動と気分をモニタリングしてください。



<ステップ2:新しい行動を選択する>

問題行動が特定できれば、それに代わる行動を考えて置き換えることができます。代わりの新しい行動を選ぶときのポイントは次のとおりです。

・新しい行動は具体的か?(具体的な数字を入れると良い)
・新しい行動は本当にあなたの役に立つのか?
・新しい行動は本当にあなたの望む行動か?
・実行可能な小さな行動を選んでいるか?



<新しい行動は「ただの実験」>

代わりの新しい行動を実行するときに、「これはただの実験だ」と考えます。成功も失敗もありません。その行動があなたの役に立つかどうかを確かめるための実験なのです。もし「実行できるかどうか」が心配なのであれば、それは新しい行動の難易度が高すぎる可能性がありますので、その行動自体を見直してみましょう。「これなら実行するのはたやすい」と思える簡単な小さな行動を選んでください。行動を細分化するとたいてい難易度が下がります。あなたが自信をもって実行できると思える行動を考えてみてください。



<課題 5-2> 問題行動に代わる新しい行動を考えてみてください。ゆっくりと時間をとり、リラックスして、頭を柔軟にして、いろいろな角度からアイデアを出してみてください。



<ステップ3:新しい行動を試す>

<課題5-3> 課題5-2で考えた新しい行動を実行していきましょう。その行動があなたの役に立つか立たないかを判断する前に、少なくとも3回は試してみましょう。第3章でしたように、ここでも自分との契約書を書いてみるとよいでしょう。これをすることが決意表明になりますし、実行できる可能性が高まります。家族や友人にこの契約書を見せたり、話したりするとさらにうまくいく可能性が高まります。



<失敗の不安や恐怖は自然なもの>

新しい行動を試す段階までくると、失敗する不安や恐怖を感じて、行動をためらってしまうことがあります。でも、それはとても自然な反応です。今までと異なる行動をとるということは、今までと異なる経験をするということです。それは未知の世界に足を踏み入れるのと同じことです。未知の世界、自分の知らない世界を目の前にすると、誰だって怖くて足がすくんでしまって、すぐには一歩を踏み出せないものです。



<不安や恐怖を認めるのは強さの証し>

変化に対する不安や恐怖で前に進みたくないときに頭に浮かぶ決まったフレーズ(考え)があります。 「こんなことやって意味があるのか?」 「これは自分が本当にやりたいことではない」 「どうせうまくいかないだろう」 もしこのようなフレーズ(考え)があなたの頭に浮かぶなら、それはあなたが変化すること、前に進むことをためらっているということです。そう考えることがダメなわけではありません。変化や失敗に対する不安や恐怖があるのは、あなたの心の弱さではありません。ただ自分自身の中に不安や恐怖があることを認めてください。良いも悪いもなく、そういう気持ちがあなたの中にある、ただそれだけです。それを認めたときにはじめて、不安や恐怖を乗り越えることができます。そしてそれは、あなたの人間的な強さの証しになります。



<ステップ4:結果を評価する>

<課題5-4> 新しい行動をとった後、しばらくは気分の変化をモニタリングしてください。行動の直後はどんな気分ですか?30分後は?1時間後は?翌日の朝の気分もモニタリングして記録をつけておきましょう。 新しい行動が役に立つかどうかを判断する前に、少なくとも3回は試してみてください。



<課題5-5> 次の質問に答えを考えて、新しい行動の評価をしてみましょう。 ・新しい行動をして、気分が良くなりましたか?悪くなりましたか?変わりませんか? ・新しい行動をする際に、難しい点はありましたか? ・この行動を日常生活に取り入れようと思いますか? ・この行動をとおして何を学びましたか?



<ステップ5:役立つ行動を生活に取り入れる>

<課題5-6> 前の課題であなたに役に立つ行動がいくつか見つかったと思います。(見つかっていなければ、前までのステップを続けてください。) それらをあなたの普段の生活に取り入れてみましょう。 生活に取り入れるときのポイントを以下に示します。 ・すこしずつ変化を取り入れる。(一度に多くの変化を取り入れない) ・完璧を求めない。(決めたことの7割くらいできればOK!) ・決意表明を書いて見えるところに貼っておく。(手帳やカレンダーなどに書いても良い) ・決意を家族や友人に話しておく。(実行の可能性が高まります) ・新しい行動をすることのメリット・デメリットを考える。(紙に書き出してみましょう) ・自分の正直な気持ちを見ていく。(変化への不安、恐怖など、思うことを紙に書き出しましょう)



<変化を求める気持ち、現状を維持したい気持ち>

人は変化を求める気持ちがある一方で、多少苦痛があって居心地が悪くても、現状のままでいいと思う気持ちもあります。頭では変化を求めていても、心ではそれほど変化を求めていないことがあるのです。そっとあなたの心に触れて感じてみてください。あなたはそれほど「良くなりたい、変わりたい」と望んでいないことに気付くかもしれません。もし、そういう気持ちがあったとしても、それは人間にとってとても自然なものです。心の中には相反する気持ちが同時に存在しているのです。矛盾する気持ちがありながらも、あなたに「変わりたい」という前向きな気持ちがあることは間違いありません。その気持ちにしたがって行動してみてください。



<課題5-7> 新しい行動を生活に取り入れることのメリットとデメリットを考えてみましょう。




第1章 うつ病と不安の克服に向けて
第2章 行動と気分のつながりを理解する
第3章 行動を変え、気分を変える
第4章 逃げない自分になる
第5章 新しい生活を手に入れる
第6章 ネガティブ思考をやめる
第7章 気分に流されない自分になる
第8章 人生をコントロールする