第3章 行動を変え、気分を変える


第3章 行動を変え、気分を変える


前章では、あなたは行動を変えると気分が変わることを理解しました。この章では、日常の行動を変えていく具体的な方法を学んでいきます。


<行動と気分の変化を起こすための8ステップ>

① 気分の落ち込む状況と行動を特定する。 ② 代わりの行動を考える。 ③ 代わりの行動を選ぶ。 ④ 「単なる実験」と考える。 ⑤ 代わりの行動を実行する。 ⑥ 気分の変化を記録する。 ⑦ 行動実験の結果を評価する。 ⑧ さらに新たな行動を実行する。1ステップずつ詳しくみていきましょう。

① 気分の落ち込む状況と行動を特定する。
不快な状況にあなたがどのように対処するかで、その後の気分は大きく影響を受けます。


<課題 3-1> あなたの記録した活動と気分のモニタリング表を振り返って、不快な気分の時間枠に星印(☆印)をつけましょう。


② 代わりの行動を考える
気分が落ち込んでいる状況で、もしあなたが気分を悪化させる行動をとっていたら、あなたはうつ病のループ(悪循環)から抜け出すことはできません。どんな不快な状況でも、気分や状況が良くなる行動は必ずあります。もし部屋が散らかっている状況で、ふて寝をしたり、テレビを見たり、マンガを読んだりすることは、長い目でみるとさらに気分を悪くしてしまうでしょう。たとえば、部屋の一角、たたみ一畳分だけでも片付けをすると、気持ちは楽になりますし、部屋の状況はわずかでも改善します。


<課題 3-2> 活動と気分のモニタリング表に星印(☆印)をつけた時間枠から2~3つ選んで、下の項目について書き出してください。
・曜日と時間
・状況(出来事)
・そのときの行動
・代わりの行動
うつ病のときは特に、気分に流されて行動しやすくなります。少しでも気持ちが楽になる可能性のある「代わりの行動」をできるだけたくさん考えてみましょう。どの行動が役に立つのかはやってみないとわかりません。この段階ではできるだけたくさんのアイデアを出すことが大切です。



<ヨシコさんの場合>

ヨシコさんは、気持ちが楽になる可能性のある行動をいろいろ考えてみました。たくさんのアイデアが出てくると、ヨシコさんはまだ何も行動していないのに、ホッとして明るい希望を感じました。うつ病のときには、自分にはできることは何もないと漠然と感じてしまいます。小さな行動の変化すら起こそうと思わなかったヨシコさんは、様々な行動の選択肢を見え始めると、小さな変化であれば行動を起こすことができると思えるようになり、明るい希望を持つことができたのです。ヨシコさんは、自分にはいくつもの選択肢があることがわかり、そしてどれを選択するかは自分で決められるということを理解し始めました。


③ 代わりの行動を選ぶ
課題3-2で考えた「代わりの行動」を見直してみて、どれがあなたの気分を良くしてくれそうか考えてみましょう。選ぶときに注目するポイントは「実行のしやすさ」です。たとえば、普段全く読書をしない人が、毎日1時間の読書や勉強を計画したとしたら、それは難易度が高すぎます。普段全く運動しない人が、毎日1時間ジョギング、筋トレをすると決めても、三日で挫折する可能性が高いでしょう。あなたが自信をもって実行できると思える行動を選びましょう。このステップで必要なことは、難易度の高い目標を達成することではなく、小さな成功体験を積み重ねることです。その経験によって、自分自身をコントロールしているという感覚が得られ自信がつくようになります。そして、より大きなチャレンジが可能になります。 その他のポイントとして、疲れている時間帯はリラックスできる行動を選ぶ、時間を無駄にしていると感じる時間帯は身体を動かしたり勉強など自分にとって価値を感じる行動を選ぶようにするとよいでしょう。


<課題 3-3> 課題3-2で考えた「代わりの行動」の中から、あなたの気分を良くしてくれそうな行動を2つ選びましょう。選ぶときのポイントは「実行のしやすさ」です。これなら実行できると思えるものを選びましょう。


<課題 3-4> 「自分との契約書」を作りましょう。次に、その契約書を見える場所に貼り、手帳やカレンダーに実行の予定を書き込みましょう。


<自分との契約書について>

契約書を作ることには抵抗があるかもしれませんが、契約書を作ることで決めたことを実行できる可能性が高まることが心理研究によりわかっています。また、家族や友人に契約書を見せたり、意思表明をすることでさらに成功率が高まることもわかっています。 契約書を作る→契約書を見えるところに貼る→手帳やカレンダーに予定を書き込む→家族や友人に決意表明をする。 ここまですると、実行・継続の成功率はかなり高まります。



④ 「単なる実験」と考える
代わりの行動を試してみるときに、「これは単なる実験だ」と考えることはとても重要です。この行動実験は、あなたの意志の強さを試すテストではありませんし、代わりの行動が「正しい」かどうかを調べるテストでもありません。この実験は、単に代わりの行動があなたの気分にどう影響を与えるかを調べるためのものです。 うつ病がひどいときは、「これは単なる実験だ」と考えることが難しいことがあります。否定的な気分のときは、「どうせうまくいかない」「どうせ失敗するに決まっている」「こんなことやって何の意味あるのか」などと否定的に考えてしまいます。しかし、代わりの行動を試すことはただの「実験」ですから、失敗も成功もありません。ただ気持ちがどう変化するか見てみるだけです。代わりの行動によって気分が良くなれば成功、悪くなれば失敗ということではありません。ある行動をとることで「どんな気分の変化が起こるかわかる」のですから、どのような結果が出てもある意味すべて「成功」ともいえるのです。 さらに、「これは単なる実験だ」と考えることは、過剰な期待を持たないということでもあります。ある行動で気分が楽になったとしても、それだけでうつ病がすっかり治ってしまうわけではありません。過剰な期待は禁物です。 代わりの行動をやってみると決めたら、否定的に考えず、また意気込み過ぎず、ただ「やってみる」だけです。


⑤ 代わりの行動を実行する
代わりの行動を実行する際に重要なポイントが3つあります。 (a) 行動そのものに集中する (b) 実験の最中に気分の変化をモニタリングしない (c) 行動実験を何度か繰り返す

(a) 行動そのものに集中する
代わりの行動を試してみるときは、あなたがしている行動そのものに集中してください。たとえば、散歩をしているとき、ずっと憂うつなことを考えていたとすると、それは散歩ではなく、考えの方に集中していることになります。散歩するというのは、歩きながら周りの風景をながめ、小鳥のさえずりを聴き、風を感じ、足の裏の大地の感覚、身体を動かしている感覚を味わうことです。

(b) 実験の最中に気分の変化をモニタリングしない
代わりの行動を試している最中に、気分の変化をモニタリングしないようにしましょう。「行動を変えても気分は落ち込んだままだ。うまくいっていない。」などと気分の変化をモニタリングしてしまうと、やっている行動に集中できなくなります。代わりの行動をしているときは、気分の変化がどうなるかは考えず、ただ行動して感覚を味わってください。

(c) 行動実験を何度か繰り返す。
一回だけでなく何度か繰り返し行動実験をしましょう。優れた科学者は必ず繰り返し実験を行います。なぜなら、条件がわずかでも変われば、結果が変動する可能性があるからです。代わりの行動があなたの気分にどのような影響を与えるのか結論を出す前に、少なくとも3回はその行動を試してみましょう。何度か繰り返し試してみることで、より精度の高い結論を出すことができます。


⑥ 気分の変化を記録する
<課題 3-5> 代わりの行動を試してみたら、活動と気分のモニタリング表に記録をつけましょう。できるだけこまめに記録をつけるようにしましょう。代わりの行動は、少なくとも3日間は続けましょう。

⑦ 行動実験の結果を評価する
<課題3-6> 課題3-5で記録した活動と気分のモニタリングの結果(気分の変化)を振り返ってみましょう。代わりの行動を試した結果、気分は良くなりましたか?悪くなりましたか?日によって気分に変動がある場合は、何か細かな条件が違っているかもしれません。 活動と気分のモニタリングの結果からあなたが学んだこと、気づいたこと、感想など思いつくことを自由に書いてみましょう。



<「気分は良くならない」という結果になった場合>

代わりの行動を試してみて「気分は良くならない」という結果になったとしても、それは実験が失敗したわけではありません。ある行動では気分が良くならないことがわかったのですから、実験成功といえます。 気分が良くならない理由として、次のような可能性が考えられます。
・その行動は気分の改善に役に立たなかった。(そのことがわかったという意味では実験成功です)
・実験中に考え事をしたり、気がそれている。(行動に集中する必要があります。再度その行動を試してみるか検討する)
・実験後すぐにモニタリングの記録をとらなかったため、気分を正確に思い出せていない。(できるだけこまめに記録をつけましょう。再度その行動を試してみるか検討する)

⑧ さらに新たな行動を実行する
<課題3-7> ②~⑦までのステップを継続してチャレンジしてください。気分がすぐれないときはチャレンジをすることが難しい場合がありますが、性急な結論を出さず、急速な解決を期待せず、地道にチャレンジをし続けてください。この行動実験(②~⑦のステップ)を少なくとも2週間は続けてください。このステップでは活動と気分のモニタリングは簡略化してかまいません。


<課題3-8> あなたの気分を改善する行動が見つかれば、書き出してリストにしておきましょう。


<課題3-9> 課題3-8でリストにした行動の中で、今後も続けていきたいと思うものはありますか?あれば、それらを日々の日課として生活に取り入れましょう。



<この章のまとめ>

あなたが普段、何気なくとっている行動(=習慣)はあなたの気分に大きな影響を与えています。その行動は無意識で行われているため、自分では気づくことが難しいものです。もしそれがあなたの気分を悪くする行動であったとしても、気づかないうちに繰り返してしまいます。これがうつ病のループ(悪循環)になります。 うつ病を克服するために最も重要なことは「行動と気分の関連に気づいていくこと」です。あなたは、どのような状況で、どのような行動をとり、どのような気分になるのか、あなた自身のパターンを把握することが大切なのです。この章の課題をとおして、あなたは「気分の良くなる行動」を見つけることができました。それは、あなたが行動と気分の関連を理解していることを意味しています。あなたはうつ病の克服に向けた大きな一歩をすでに踏み出しています。




第1章 うつ病と不安の克服に向けて
第2章 行動と気分のつながりを理解する
第3章 行動を変え、気分を変える
第4章 逃げない自分になる
第5章 新しい生活を手に入れる
第6章 ネガティブ思考をやめる
第7章 気分に流されない自分になる
第8章 人生をコントロールする