認知行動療法のメリットとデメリット



・認知行動療法とは?
・どのような治療法なのか?
・実際に何をするのか?
・認知行動療法のメリット
・認知行動療法のデメリット



認知行動療法とは?

認知行動療法(Cognitive behavioral therapy / CBT)は、精神疾患の治療において薬物療法と並んで重要な治療法のひとつです。

認知行動療法は、特に以下の精神疾患に有効な治療法とされています。

・うつ病
・パニック障害(不安障害)
・強迫性障害
・摂食障害
・その他、様々な恐怖症

薬物療法は人工的に作られた「薬」を体内に取り入れて治療しますが、認知行動療法は、その人の内面に働きかけることで根本的な改善を目指す治療法です。
認知行動療法に取り組むことで、実際に脳内の器質的変化や脳内伝達物質のバランスが改善することも医学研究で確かめられています。
薬物療法では十分に良くならなかった人や薬に頼らずに治したいという人にとって有効な治療法となるでしょう。

最近では、テレビや新聞などのメディアで認知行動療法が取り上げられることが増え、多くの人に知られるようになってきました。

「認知行動療法をやってみたい」
「認知行動療法はどんな治療法ですか?」
といった相談を受けることも増えてきています。

ここでは認知行動療法についてのおおまかな説明と、認知行動療法のメリットとデメリットについて説明していきましょう。
少し長くなりますが、認知行動療法に興味がある方はぜひご一読ください。




認知行動療法はどのような治療法なのか?

認知行動療法とはどのような治療法でしょうか?

認知行動療法は、私たちの「ものごとのとらえ方、考え方」を修正することで、気分や行動を変化させようという治療法です。

「ものごとのとらえ方、考え方」のことを認知行動療法では「認知」と呼びます。

認知=ものごとのとらえ方、考え方

私たちはみんな「認知(ものごとのとらえ方)」にかたよりを持っています。
例えば、同じ「みかん」を見たときに人によって反応は異なります。
「甘くておいしそう!食べたい!」と考える人もいれば、
「すっぱそう、、、こんなの食べたくない」と考える人もいるでしょう。

このように、同じ物事に対しても、そのとらえ方、考え方というのは人によって異なっているものなのです。

認知にかたよりがある=みんなそれぞれ異なった考え方をしている


「認知にかたよりがある」「みんなそれぞれ異なった考え方をしている」ということ自体は何も悪いことでも間違ったことでもありません。
この認知のかたより、考え方の違いが人の「性格」や「個性」となり、人間の多様性のもとになっています。
もしこの世界の人々がみんな同じような考え方をしていたら、争いごとなどは少なくなるかもしれませんが、とても単調なつまらない世界になってしまうでしょう。

認知にかたよりがある=悪いことでも間違ったことでもない!


しかし中には、認知のかたより(ものごとのとらえ方)が原因でひどく落ち込んだり、強い不安を感じてしまう人もいます。
落ち込んだり不安を感じている状態は心身に対して強いストレスになります。
その状態が長く続くと脳へのダメージが蓄積してうつ病や不安障害(パニック障害、強迫性障害など)の発症につながります。

また、うつ病や不安障害を発症してしまうと、発症前よりも認知のかたよりが顕著になり、ものごとに対してよりネガティブにとらえてしまう傾向が強まります。
それが症状を悪化させてしまう原因になるのです。

ものごとのとらえ方がうつ病や不安障害の原因になる


例えば、職場で「上司に怒られる」という出来事が起こったときのことを考えてみましょう。

「いつも怒られてばかりで、私は価値のない無能な人間だ」
と考えてしてしまう人もいれば、
「上司は自分に期待してくれているんだ。だから厳しく指導してくれている。ありがたいな」
と考える人もいるでしょう。

同じ「上司から怒られる」という状況で前者と後者、どちらが心を健康に保てるでしょうか?
一般的に考えれば、もちろん後者でしょう。




認知行動療法では実際に何をするのか?

簡単にいえば、認知行動療法は、
①気分に悪影響を与える「認知のかたより」を見つけ出し
②その「認知のかたより」を修正する
という治療法です。

認知行動療法=気分に悪影響を与える「認知のかたより」を見つけ、修正する

ある状況で自動的に浮かんでくる思考のことを「自動思考」といいます。
これは誰もが持っている「考え方のクセ」のようなものです。
認知行動療法では、まずその人が持っている「自動思考」を明確にしていきます。
気分を不安定にするような「自動思考」がないか自分自身の思考パターンをよく観察し、細かく紙に記録していきます。
もし気分を不安定にするような自動思考が見つかれば「新しい考え方」に修正していきます。
そしてその「新しい考え方」を実生活で使ってみて、うまくいけばそれを続け、うまくいかなければその理由を考えていきます。

新しい考え方に基づき「新しい行動」を実生活の中で試してみることを「行動実験」といいます。
行動実験をしてみて得られた結果をさらに観察し分析します。

①自分の考えていることを「観察」し「記録」する。
②それらを客観的に分析する。
③それに基づき「新しい行動」を考える。
④それを実生活で試してみる「行動実験」

このように、認知行動療法は「科学的なアプローチ」で進められます。


認知行動療法は、理論が常識的でわかりやすく、取り組む課題もそれほど難しくありません。
本を買って自分で取り組んでいくことも可能です。
しかし、最初のうちは経験のある心理士と一緒に進めていくことが理想的でしょう。
自力でやろうとすると挫折してしまうことが多いのですが、その理由は、自分ひとりでは自分自身を客観的に見ることが難しいためです。
自動思考というのは、たいていは子どもの頃から使ってきた思考パターンで、自分にとっては当たり前の考えになっているため、その存在に気づきにくいのです。


認知行動療法は、結果が出るまでにある程度の時間が必要になります。
標準的な治療では16回の面談を行います。
また、様々な課題に取り組んでいくことになりますので、ある程度の意思と労力も必要となります。

認知行動療法は、薬のような手軽さと即効性はありませんが、「ものごとのとらえ方」という根本からの改善を期待できる有益な治療法になります。





認知行動療法のメリット

認知行動療法はどのようなメリットのある治療法なのでしょうか。
認知行動療法の特徴の中でプラスの面を紹介しましょう。


① 薬と同等かそれ以上の効果がある

認知行動療法は、しっかり訓練を受けた治療者のもとで取り組めば、抗うつ薬と同等かそれ以上の効果があります。
抗うつ薬による薬物療法と治療効果を比較する多くの医学研究にて確認されています。
認知行動療法は、薬とは作用の仕方が異なることから、薬とうまく組み合わせて治療を行うとより治癒成功率を高めることできるとされています。


② 再発予防効果に優れる

認知行動療法は「認知のかたより」に焦点を当て、気分に悪影響がありそうな認知の修正をはかっていきます。
しっかりと認知の修正に取り組むことができれば、その効果は認知行動療法を終えた後も続きます。

例えば、先ほどの上司に怒られた時の例を出せば、
「上司に怒られるような私は価値がない人間だ」という認知を修正し、
「わざわざ労力を割いて怒ってくれるというのは上司の優しさなのではないだろうか」
「私が本当に価値のない人間なら、そもそも時間と労力の無駄だろうから怒らないはずだ」
「怒ることで私に成長して欲しいという期待をしてくれているのではないか」
「怒ってもらえたから社会人として一つ成長できた」
と考えられるように認知を修正できるようになれば、認知行動療法が終了した後もその効果は続くでしょう。

薬物療法と認知行動療法の最大の違いはここにあります。

認知行動療法は「考え方を変える」治療法であるため、しっかりと考え方を修正することができれば、治療後もその効果は続きます。
一方、薬物療法は服薬中は気分が安定していたとしても、服薬を止めてしまうと再発のリスクが高くなります。
薬物療法は薬の力によって気分を安定させているに過ぎないからです。

認知行動療法は、治療が終わった後も日常生活の中で認知行動療法で学んだ「新しい考え方」を使い続けることができれば、高い再発予防効果を発揮します。
高い再発予防効果こそが認知行動療法の最も大きなメリットになります。




認知行動療法のデメリット

認知行動療法は薬物と違って副作用はありませんが、認知行動療法にデメリットがないわけではありません。
どのような治療法もメリットとデメリットがあります。
ここでは認知行動療法の特徴の中でデメリットとなる面を紹介しましょう。


① 即効性はない

認知行動療法をはじめとした心理療法のデメリットとして、即効性に欠けるということが挙げられます。
抗うつ薬はそれほどの即効性はありませんが、一般的な薬は飲んですぐに効果が現れるものが多いでしょう。
認知行動療法の効果の発現は、早くても2~3ヶ月程度はかかると考えておくとよいでしょう。

これはよく考えれば当たり前の話で、「考え方を変えましょう」と言われてすぐに変えることの出来る人などいません。
私たちの性格や考え方は、幼少期から長い年月をかけて徐々に形成されてきたものです。
それを一朝一夕で変えることは難しいでしょう。
また私たちは、変化を無意識に恐れ、現状にとどまろうとする傾向があります。
考え方を変えようとしても、それに抵抗して現状にとどまろうとする心理が働いてしまうことは珍しいことではありません。
このような理由から、認知の修正には一定の時間がかかるのが普通なのです。

認知行動療法では、効果の発現まである程度の時間がかかることを覚悟し、時間をかけてゆっくりと認知の修正に取り組んでいこうとする気持ちが必要となります。


② お金がかかる

認知行動療法は、薬物療法と比べるとお金がかかります。
認知行動療法に保険が効くのは、医師が行う場合に限ります。
臨床心理士が認知行動療法を行う場合は、保険が効かず自費になっています。
認知行動療法は1回に30~60分かかります。
医師は多くの患者の診察を行うため、認知行動療法にまで手が回らないというのが現状です。
医師が診察を行い、臨床心理士が認知行動療法を行うという役割分担をしている病院がほとんどでしょう。

臨床心理士による認知行動療法は、1回5,000~12,000円の料金となることが多いようです。
回数は一般的に15~20回程度行いますので、それなりのお金が必要となります。


③ 自分で努力する必要がある

薬物療法というのは、極端な言い方をすれば「薬を飲めば効果が出る」という治療法です。
「飲むだけ」ということなので治療に対する労力はかなり少なくて済みます。
もちろん副作用の問題などはありますが、「飲んで効果が出るのを待つだけ」という簡単な治療法といえます。

しかし認知行動療法はそうはいきません。

まず面接において、しっかりと自分の認知のかたよりを探していかなければいけません。
治療者も手助けはしますが、やはり本人にしか分からないことも多いため、本人が主体となって探していくことになります。

また、面接の中で「自分にはこのような認知のかたよりがある」と気づき、「このように別の考え方をしてみよう」と理解できたとしても、それを日常生活で使わなければ意味がありません。
「新しい考え方」というのは、日常生活で意識的に繰り返し使っていくことで身に付いていくものなのです。
日常生活での実践は治療者は手伝うことができません。
自分自身で頑張って実践していくしかないのです。

認知行動療法は非常に有効な治療法ですが、「自分で勉強し、実践して治していこう」という意思と覚悟を持って取り組まないと効果が出ない治療法なのです。


④ 精神状態が極めて悪い時には不向き

認知行動療法は「自分で努力する必要がある」治療法と説明しました。
そのため、認知行動療法は精神状態が極端に悪い時には行うことが難しくなります。

例えば、うつ病で頭が全く働かなくて、身体が鉛のように重い状態の時に、50分の面接を受けることは非常に難しいでしょう。
無理をして受けると、疲れてしまって余計に状態が悪化してしまう場合もあります。

もし仮に面接を受けることができたとしても、話し合った内容をしっかりと理解することは難しいでしょうし、それを日常生活で実践していくことは更に難しいことと思われます。

認知行動療法を行うときは、ある程度の精神的な安定が必要です。
面接で治療者との対話に集中でき、日常生活での実践に取り組める状態であれば非常に有効な治療法となります。



まとめ

認知行動療法が優れた治療法なのは間違いありません。
しっかりと受ければ、薬物療法と同等以上の効果が期待でき、更に薬のような副作用は生じません。
また、治療終了後に再発予防の効果が続くことも大きなメリットとして挙げられます。

しかし、デメリットとしては、時間、お金、労力がかかってしまいます。
また、状態によっては受けることが難しくなります。

認知行動療法のメリットとデメリットの両方を考慮した上で、自分にあった治療法かどうか検討するとよいでしょう。