栄養療法6( オメガ3脂肪酸 )


栄養療法 6 心と体が健康になる食生活( オメガ3脂肪酸 )


魚を食べよう!うつ病治療に期待の栄養素「オメガ3脂肪酸」

「オメガ3脂肪酸」(α-リノレン酸、EPA:エイコサペンタエン酸、DHA:ドコサヘキサエン酸)は、うつ病などの精神疾患の改善に高い効果が認められている栄養素のひとつです。オメガ3脂肪酸が脳神経の機能を正常に保ち、脳の病気や思考を健常化させることは、これまで多くの研究によって明らかにされています。ここでは、これまでの医学研究によって示されたオメガ3脂肪酸に関する知見をご紹介します。



うつ病改善の効果を証明

ハーバード大学のアンドリュー・ストール博士は1999年に世界で初めて、オメガ3を豊富に含む魚の油がうつ病、躁うつ病の患者の精神の安定とうつ状態を軽快させる効果があることを証明しました。ストール博士のある研究では4ヶ月で実験を中断せざるをえなくなったほどだといいます。その研究では、オメガ3を服用したうつ病患者グループとプラセボ(オリーブオイルをベースとした偽薬)を服用した「比較対照グループ」の患者とに分けて、その効果を長期にわたり比較する計画でした。しかし、プラセボを服用したグループの患者は最初の数ヶ月でほとんどの人が症状をぶり返してしまったため、実験を続けることができなくなったのです。そして、対するオメガ3を服用したグループでは、症状が悪化した患者はたった一人だけだったのです。ストール博士の衝撃の研究結果は世界中を驚かせ、多くの研究者がオメガ3の有効性を調べる追試を行いました。ストール博士に続く膨大な研究でオメガ3の効果が繰り返し検証され、うつ病、躁うつ病などの精神疾患だけでなく、さまざまな身体疾患に有効であることが確認されています。



難治性うつ病の回復

イギリスの精神科医であるプリ博士もオメガ3脂肪酸によるうつ病患者の回復に衝撃を受けた医師の一人です。プリ博士は最新の映像診断技術を使って、うつ病患者の脳の画像を詳細に調べました。オメガ3を服用後、数週間で劇的に回復したある男性患者の脳を検査し、治療の前後を比較し「神経細胞の膜が強くなっただけでなく、脳の代謝が活発になり、脳の構造そのものが変わってしまったようだ」と述べています。この男性は治療抵抗性の躁うつ病患者で、治療は10年近く難航していましたが、オメガ3を服用するようになって2~3週間後には常につきまとっていた自殺願望がすっかり消え、落ち込んだ気分が和らぎ、夜眠れるようになったといいます。驚くことに9ヵ月後には10年近く抱え続けたうつ症状がすべて消え去ったというのです。

プリ博士の衝撃の事例が発表された数ヵ月後、別の科学者が治療抵抗性うつ病患者に対してオメガ3の効果を調べる比較試験を行いました。イスラエルのネメッツ博士らの研究チームは、オメガ3と同量のオリーブオイル(プラセボ)を比較したところ、どんな治療にも反応しなかった患者の半数以上に3週間以内に著しいうつ症状の改善が見られ、プリ博士の研究と同様の結果が得られたと報告しています。

さらに他のいくつかの研究では、落胆、悲しみ、不安、不眠、性欲減退、自殺願望などのうつ状態もオメガ3脂肪酸によって改善される可能性を示唆しています。



オメガ3の欠乏でうつ状態に

産後うつ病(マタニティーブルー)にかかる若い母親は日本でも増えています。その割合は10人に1人とも5人に1人ともいわれています。その原因のひとつとされているのが「オメガ3脂肪酸」の欠乏です。「オメガ3脂肪酸」は体内で作り出すことができない「必須脂肪酸」で、安定した脳の構造を保つために重要な働きをしていることがわかっています。

栄養学で用いられる「必須」という言葉は「体内で合成されないため食物から摂取する必要がある」という意味で使われます。 胎児は母親の胎盤をとおして脂肪酸を優先的に吸収します。そのため、出産直前には母親の体内の脂肪酸の蓄えが減少しています。さらに、出産後は母親は母乳をとおして赤ちゃんに脂肪酸を与えることになるので、母親の体内のオメガ3脂肪酸はさらに減少します。オメガ3脂肪酸の主な供給源は魚類ですが、妊娠中、出産後の栄養摂取が不足すると産後うつ病になるリスクが高まります。

日本や東南アジアの国々では、産後うつ病にかかる人の割合はアメリカやヨーロッパの3分の1程度といわれています。欧米と比べてアジアの国々で産後うつ病が少ないのは、魚介類の摂取量が欧米よりも多いことが関係していると考えられています。



脳の神経発達に重要な栄養素

脳が急激に成長する胎児と新生児は、より多くのオメガ3脂肪酸を必要とします。デンマークの研究チームは、妊娠中により多くのオメガ3脂肪酸を摂取していた女性が出産した赤ちゃんの出生体重は他の赤ちゃんよりの正常で、未熟児の割合も低いことを明らかにしました。さらに出産後、少なくとも9ヶ月間、オメガ3脂肪酸の豊富な母乳で育てられた赤ちゃんは20年後、30年後により高い知能を持っていることがわかりました。研究者たちは「オメガ3脂肪酸が新生児の脳の成長にとって重要であることは疑う余地はなく、同様に成人にとっても脳の正常な働きと情緒の安定に寄与する重要な栄養素である」と述べています。



脳には良質な脂肪が必要

脳の3分の2は脂肪酸でできています。脂肪酸は神経細胞(ニューロン)の膜を構成する基本的な成分です。食べ物から摂取した脂肪酸によって脳の神経細胞膜は形成されています。脂肪酸には大きく2つに分類できます。バターや動物性脂肪(室温で固形)に多く含まれる「飽和脂肪酸」と、植物油や魚油(室温で液体)に多く含まれる「不飽和脂肪酸」です。脳の神経細胞は不飽和脂肪酸を取り入れると、より流動的で柔軟になり、神経細胞間の情報伝達が安定して行われるようになります。脳を安定させる脂肪酸の代表が「オメガ3脂肪酸」なのです。



オメガ3欠乏のねずみはうつ状態に

オメガ3脂肪酸は人間や動物の行動に驚くほど大きな影響を与えます。研究室のマウスのえさからオメガ3を取り除くと、マウスの行動は数週間で劇的に変化します。不安になりやすくなり、記憶力が低下し、興味関心が低下し、ストレス状況下でパニックに陥りやすくなります。これらの変化はうつ病やパニック障害の症状と類似しています。



日常的に魚を食べる人はうつ病になりにくい

魚介類を多く食べるエスキモーは、うつ病になる人はほとんどいないことがわかっています。彼らは魚油を毎日平均16グラム摂取していると推定されています。フランスの研究チームは、エスキモーのような日常的にオメガ3脂肪酸を大量に摂取する食生活は、長期にわたって脳内の神経伝達物質を増加させ、気分を安定させる可能性があると報告しています。

うつ病とオメガ3の体内備蓄量との関係は、いくつかの研究結果から示唆されています。うつ状態にある患者は健康な人と比べてオメガ3の備蓄量が少なく、備蓄量が少なくなればなるほどうつ症状は重くなることが示されています。



オメガ3脂肪酸が多く含まれる食べ物

オメガ3(α-リノレン酸、EPA、DHA)は魚介類、特に魚類(魚油)に豊富に含まれています。エビ、イカ、たこ、かに、貝類には魚類ほど多く含まれていません。オメガ3は、元々は海藻やプランクトンなどの微生物が生産したもので、食物連鎖の過程で魚類の体内に濃縮されたものです。オメガ3の豊富な魚100グラムあたりのオメガ3の含有量は次のとおりです。

さば:2.5グラム
いわし:1グラム
まぐろ:1.5グラム
さけ:1.4グラム
にしん:1.7グラム

厚生労働省の発表による「日本人の食事摂取基準(2010年版)」では「(健康維持のため)EPAおよびDHAは一日合計1グラム以上の摂取が望ましい」とされています。上記の数値を参考にすると、日本人は一日70~80グラムの魚を食べれば良いということになります。

緑黄色野菜には量は少ないもののα-リノレン酸が含まれています。また、植物性油の中にはα-リノレン酸を豊富に含むものがあります。「えごま油」「亜麻仁(あまに)油」などで、100グラムあたり50~60グラムものα-リノレン酸が含まれています。これはスプーン1杯で一日の必要量をまかなえるほどの量です。ただし、えごま油、亜麻仁油は非常に酸化しやすいため、加熱する料理に向かないことと、開封後はできるだけ早め(2週間~1ヶ月)に使い切る必要があります。(加熱料理には「オリーブオイル」がおすすめです。)

また、食物から摂取したα-リノレン酸は体内でEPAやDHAへ変換されますが、変換される割合は10~15%程度といわれており、EPAとDHAは個別に魚油などから摂取することが望ましいとされています。



植物油と動物脂の摂りすぎに注意!

ハーバード大学の研究者チームは、10年にわたって50,000人以上の女性を対象に調査を行い「α-リノレン酸(オメガ3)を多く摂取し、リノール酸(オメガ6)の摂取を控えることは、うつ病の発症を抑制する」と発表しました。

必須脂肪酸にはオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸の2種類あります。オメガ3脂肪酸は海藻やプランクトンに、オメガ6脂肪酸は植物性油や動物脂に多く含まれます。オメガ6は人体に「必須」なのですが、過剰に摂取すると多くの病気の元となる炎症反応を引き起こすことがわかっています。心筋梗塞、脳卒中、がん、関節炎、アルツハイマーなどの慢性病はすべてこうした炎症反応によって悪化することがわかっています。こうした慢性病とうつ病の発生率には高い相関関係があることが示されており、オメガ6の過剰摂取が脳と身体に悪影響を及ぼす可能性を示しています。

心身の健康維持のためには日常の食事からオメガ6を減らしていく必要があります。オメガ3とオメガ6の理想の比率は1:1~1:4とされていますが、肉や油料理を中心とする西洋的な食生活ではその比率は1:10~1:30にもなり、オメガ6の比率が極めて高くなります。この原因は、日常的に使われる植物性食用油にオメガ6を多く含み、オメガ3はほとんど含まれていないためです。比率を理想に近づけるためには、一般的な食用油の摂取を減らさなければなりません。オメガ6の含有量が少ない油として「オリーブオイル」があります。オメガ6の摂取を抑えるためには料理にはオリーブオイルを使用すると良いでしょう。



サプリメントは「EPA」が多めのものを

これまでの研究で、抗うつ効果を得るためには2種類のオメガ3(EAPとDHA)の混合物を毎日2~3グラム摂取する必要があるとされています。それだけの量を継続して食べ物から摂り続けることは容易ではないため、現実的にはサプリメントを用いて不足分を補うことになります。

オメガ3のサプリメントを選ぶ際に重要なポイントがあります。アメリカの精神科医エリス博士は、摂取する魚油(EPA+DHA)のうちEPAの含有率が60%以上の場合はうつ症状の改善が認められたが、60%未満では効果がみられなかったと報告しています。また、アメリカのストール博士やイギリスのホロビン博士ら研究者も、抗うつ効果を持つのはEPAのほうで、DHAの割合が多いサプリメントは抗うつ効果が現れるのを抑えてしまうと指摘しています。つまり、抗うつ効果を得るためにはDHAよりもEPAの含有量が多い必要があるということです。

サプリメントを購入する際にはDHAとEPAの含有量と比率をチェックし、EPAの割合が高いものを選ぶようにしてください。また、オメガ3脂肪酸は酸化しやすいため(酸化した脂肪酸は有害)抗酸化作用のある「ビタミンE」が添加されているサプリメント選びましょう。さらに、体内でのオメガ3の酸化を防ぐためにビタミンC、亜鉛などのサプリメントと組み合わせることでより効果が期待できます。



コレステロール値を下げ心臓病の予防にも

ハーバード大学の研究チームは次のような発表をしています。

「サバ、サケ、イワシなど、脂肪を多く含む魚の中のEAP、DHAなどのオメガ3脂肪酸は胎児や幼児や乳幼児、小児の脳・神経系の発達を助け、成人では血中コレステロール値を下げ、心臓病を防ぐ働きがある。こうした魚を週1~2回摂取するだけで死亡率が17%低下し、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)による死亡率は36%も低下する。」

また、ランセット誌に掲載されたフランスの科学者が行った研究では、オメガ3を豊富に摂取する食事療法を行った心筋梗塞の患者は、食事療法を行わない患者と比べて心筋梗塞で2年以内に死亡する確率が76%も低下することを報告しています。

このようにオメガ3には脳の働きを安定させるだけでなく、血液中の中性脂肪やLDLコレステロール濃度を下げる働きがあることが示されてされており、様々な慢性病の予防が期待されています。

・動脈硬化(高血圧、心筋梗塞、脳梗塞)予防
・脂肪肝、高脂血症予防 ・加齢黄斑変性予防
・メタボリックシンドローム予防、ダイエット
・花粉症、アレルギー症状の緩和



「油」なのにダイエット効果?

オメガ3のサプリメントの中には、ダイエット効果を謳っているものがあります。オメガ3は「油」であるにもかかわらず、多く摂取しても太ることはありません。ストール博士は、躁うつ病患者に対する研究の中で「被験者は大量にオメガ3オイルを摂取しているにもかかわらず、体重の増加はなく、反対に体重の減少傾向があった」と報告しています。

また、別のマウスによる研究では、オメガ3を多量に含むえさを食べていたマウスは、まったく同じ量のカロリーのオメガ3を含まないえさを食べていたマウスより25パーセント痩せていました。研究者は論文の中で「体がオメガ3を利用することで脂肪組織の形成(肥満化)を抑制するのではないか」と推察しています。




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